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ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH

第14章 消えない傷


《クリスside》

あれから2ヶ月が経った。

あの次の日、学校へ行くために歩いていたら近所の女の人とすれ違った瞬間嘔吐してしまった。気持ちは最悪だったけど、体調は悪くなかったはずなのに。

いつしか俺は外へ出られなくなってしまった。

女の人を見るとどうしても思い出してしまう。大好きな恋人が夢中になって乱れ、腰を振るあの姿を。いやらしくダリウスを誘惑するあの女の目を。日が経つごとに俺は女という生き物が憎くて憎くて仕方なくなった。

両親は俺をとても心配していたようだけど、それは本当の俺じゃない。ゲイである本当の俺のことなんか、なんとも思っていないんだ。それは兄妹も同じ。

…ダリウスを失った俺はひとりぼっちだった。

部屋の中で、毎日誰にも会わず過ごしていた。
そんな俺の傍を離れずにいてくれたのはベイリーだ。

「…ベイリー、ごめんよ」

お前の好きな散歩に連れて行ってやれなくて。そう言うと、ベイリーは決まって濡れた鼻をピトッと俺の鼻にくっつけて口元をぺろぺろと舐めてくれた。



ある朝、目覚めるとベイリーは俺の傍にいなかった。

「……ん…ベイリー?」

俺が呼ぶと爪が床を弾き愉快な音を立てて、俺の部屋の中に駆け込んできた。

「…ベイリ……えっ」

その口にはリードが咥えられていた。

散歩に行く時、ベイリーは必ずリードを自分で咥えて持ってきた。

散歩というワードは一切発していない。
…ベイリーが俺を元気付けようとしてくれている、そう感じた。

「ベ、ベイリー……ッ」

俺はベイリーの耳周りの毛をわしゃわしゃとかき回すように撫でた。
ぽたぽたとベイリーにかかる水滴を見て、自分が泣いていることに気が付いた。泣いたのはいつぶりだろう。ここ最近はもう涙も出なくなっていたから。



「…っいこう、ベイリー!」


俺は涙を拭って外へ飛び出した。
遠くから女の人が歩いてくると、ウッと吐き気が込み上げてくる感じがしたが下を向いてなんとか堪えた。


いつもの公園に辿り着く。

並木道を歩いていると積もった雪がサラリと枝の間から落ちてキラキラと光っていた。綺麗だな、そんなことを考えているとグイッと突然ベイリーがリードを引っ張った。手からリードが離れる。


「わっ…こら、ベイリー……ッ!」


ベイリーが立ち止まった場所にいたのは、

ダリウスだった。


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