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ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH

第14章 消えない傷


《クリスside》

俺は次の日、ダリウスの家に向かった。
いつも確実に家にいる時間。

話をしよう。
きっと大丈夫。


ドアの前に立った途端、ドロドロとした黒い闇が俺を飲み込もうとしてくる感覚に陥った。

やめろ、違う!

俺はダリウスを信じる。
俺を愛してると言ってくれたダリウスを信じてる。


考え事をしていたらついいつもの癖でチャイムを鳴らさずにノブを捻ってしまった。


ガチャ…


あれ、鍵が開いてる?

どうしようかとそのまま悩んでいると、中から何やら声が聞こえてきた。


「はン…アァ…ッ!…ダリウス…っ!」
「っ、…んッ!」


俺の足が無意識に前に動き出す。
廊下を進んでいくと会話ではない声が大きくなる。ぐちゃぐちゃした湿った音も、肌と肌がぶつかる高い音も段々とクリアになっていく。

俺が入ってきていることには微塵も気付いていない。

部屋へと繋がる半開きのドアをそっと開けた。


「…アァン!…イイ、ダリウス…ッもっと…!」
「……ッはぁ、気持ちいいよ…ケリー…ッ!」


裸の男女が必死に息を荒らげて体をぶつけあっている。ダリウス、何をしているの…?そんなヤツの体に触らないでよ。そんなヤツに裸を見せないでよ。俺はダリウスのそんな声…聞いたことないよ。

視界がグルグルし始めた。



ダリウスの動きはどんどん加速する。
聞こえる音も女の声も激しくなる。



ドンッ


不意に体がよろけて壁にぶつかってしまった。


「…はぁ、……ックリス!?!」
「きゃー!なに!?」


俺は目眩で白く歪んだ視界で、壁伝いに玄関へ向かった。

「…クリス!」

部屋の中からバタバタと音が聞こえてくる。俺は顔を合わせたくなくて必死に逃げた。

やっとの思いで玄関から飛び出て、近くの路地に入ると先程の光景が鮮明に浮かんできた。強い吐き気に襲われて、その場に嘔吐する。


生理的な涙なのか、感情的な涙なのか、もはやわからなかった。

俺はゆっくりと立ち上がって歩き出す。

部屋にこもった生々しい臭いを思い出しては吐いた。


家に着いて、父のパソコンで検索する。


“裸 男女 ベッド”


「…セックス…」

この時俺は初めてこの行為の存在を知った。
画面の中と記憶の2人の行為が重なる。

俺は履歴を削除しながら、泣き続けた。
足元にはベイリーが擦り寄った。
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