ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《クリスside》
「…ダリウス?」
「クリス…話してくれてありがとう。1つ聞いてもいいか?クリスは、そんな自分のことをおかしいと思うのかい?」
「……え?」
「自分のことを…恥ずかしい、気持ち悪いと思うのか?」
「…え…えっと、」
俺はすぐに答えられなかった。
「…俺は、キミのことをそんなふうには思わない。むしろ、キミの周りの人達は、キミに対し失礼で恥ずかしいことをしていると早く気付くべきだ」
俺は驚いた。
そんなことを言ってくれる人には今まで出会ったことがない。俺のことじゃなく、周りの人達を責めてくれる人がいるなんて…俺のためにこんなにも怒ってくれる人がいるなんて、知らなかった。
「クリス…無理に男らしく振る舞おうとしなくていいんだよ。せめて、俺の前では…ありのままのキミでいて欲しい」
「…っ……ダリウス…」
涙がとめどなく溢れる。
ありのままの俺でいていい、その言葉がどれだけ嬉しかったことか。
「…クリスが俺のことを特別な目で見ていたこと、実はずっと気が付いていたんだ」
「え…?」
「最初は何かの間違いだろうと思った。…でもキミに会う度に、その目が間違いじゃないと言っている気がした」
「……っ」
「自分を見てって、言ってる気がした」
「おれ!…ぁ…っぼ…ぼく、ダリウスにぼくを見てほしいってずっと思ってた…ダリウスにぼくを好きになって欲しいって…ずっと思ってた…」
ダリウスは俺の言葉ひとつひとつにあぁ、と頷きながら聞いてくれていた。
「…でも、もしそれが叶ったら…ダリウスも神様を裏切ることになっちゃうから…それはダメだって、思ってて…」
そう俺が言った瞬間、俺の体はダリウスの腕に包まれていた。
「…っ!…ダリウ」
「いいよ、裏切っても」
えっ…?
「クリス…俺は今まで同性を好きになったことはなかったけど、キミに好きになってもらえて嬉しいと思ってるよ…そんな俺のことをキミはおかしいと思うかい?」
「……」
「…俺たちは歳も離れているし、同性だけど…そんな俺たちが恋に落ちるのはそんなにいけないことなのかな?」
分かっていた、
本当はこんなのおかしいって。
「クリス、…愛してるよ」
でも俺は信じたかった。
俺はおかしくない。
俺が人を愛することは罪じゃない。
俺も誰かに、愛されてみたい。