ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《クリスside》
俺はおかしい、俺は恥ずかしい、
俺は気持ち悪い、俺は普通じゃない…
部屋でひとり泣いていると、決まって飼い犬のベイリーが慰めに来てくれた。黒のゴールデンレトリバーのオスだ。優しい目をしていて、まるで泣かないでとでも言うように顔を舐めてくれた。すると落ち込んだ気持ちが嘘のように明るくなる。俺はベイリーのリードを握って共に外に駆け出す。
いつもの公園にたどり着くと、突然ベイリーが俺の手を振り切って走り出す。
「まって、ベイリー!!」
少し先で止まったベイリーはしっぽを振りながら身を屈めていた。そこにいたのは、20代前半くらいの男性と金の毛色のゴールデンレトリバーだった。
「キミのバディかい?」
「…うん!…あの、ごめんなさい」
「あぁ、気にしなくていいよ。それに元気なのはとてもいいことじゃないか」
ニッコリと笑ったその人に、俺は恋をした。
それからというもの、俺たちは特に約束も交わさずに何度も同じ場所で会った。ダリウスと名乗ったその人はとても優しくて、家や学校でひとりぼっちだった俺の心を温かく包み込んでくれるようだった。
ダリウスがいてくれれば、ぼくは大丈夫だ
そう思っていたある日、そんな俺の様子に気付いた同級生が突然頭からバケツで水を掛けてきた。
「ゲイのくせに楽しそうにしてるなよ!気持ち悪い!」
「ゲイは幸せになれないんだぜ!」
「神様への裏切り行為だ!」
水とともに酷い言葉も浴びせられた。俺は耐えられなかった。学校を逃げるように去った俺はいつものあの公園へ急いだ。
いつものベンチに着いて辺りを見回す。もちろんダリウスはいない。でも会いたかった、会いたくて仕方なかった。俺のことを好きになってくれなくても、普通に会話をして笑い合えるあの時間が…俺は大好きだった。
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか、大量の水を被っていた俺の体はガクガクと震えていた。
「…クリス!?どうしたんだ、そんなにびしょ濡れで!」
「…ダ、リウス…?」
「あぁ、大変だ…体がひどく冷えてる…なにか拭くもの…あ、そうだ!俺の家へ行こう、急いで着替えないと!」
スッと体が浮いたかと思うと、温かい体温と匂いに包まれた。呼吸を荒くしながら俺を抱きかかえて走るダリウスは、もう少しだから…と何度も声を掛けてくれた。
