ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
「……変わってるよ、すごく」
クリスは読めない表情をしていた。
「男の俺が男を好きだって言ってるのに、そんなこと全然気にしないって顔してる…変なの」
その表情は笑っているのに何故か悲しそうで、嬉しいとも辛いとも取れる。なんだか私はその顔を見て胸がキュッと締め付けられるような感じがした。
「アッシュに初めて会った時、すごく変わった子が来たと思ったんだ。裸でパパに抱き着いた俺を見てもあまり動揺しなかったし、自己紹介した時も気味悪がらずに手を握ってくれて。…最初パパから可愛い子が来るって聞かされてたから、どんなヤツだろうって少し意地悪のつもりで驚かせてやろうと思ったんだ。そしたら…あんなカッコよくて驚いたのは俺の方だったよ」
私はうん、と頷きながら話を聞いた。
「…アッシュとの空間はあまりに居心地がよくて、つい話さなくていいことまで話しちゃったんだけど、アッシュは俺の色んなことを聞いた上で俺のことを受け止めてくれたんだ。気持ち悪いなんて思わない、きみも人間だってこんな俺に言ってくれた」
クリスが何をアスランに話したのかは分からない。でもクリスの目を見る限り、彼にとってとても辛い話をしたんだなということは分かった。
「…言っておくけど、俺はお前のことが大嫌いだよ」
突然そんなことを言われて体がビクッと反応する。
「俺の好きな人のことが好きで、その人のいちばん近くにいるメスだから…俺はお前のことがすごく嫌い」
『……っ』
「俺は、もう…嫌なんだよ、あんな思い二度としたくない…」
『あんな…思い……って、』
クリスは私が思わず漏らした言葉に、視線をゆっくり上げた。
「今日はさ、お前にその話をしにきたんだ…俺が人間のメスがどうしようもないくらいに憎くて仕方ない理由…ちゃんと聞いてて」
私がコクンと頷くと、それを見たクリスはすぅっと深く息を吸って話し始めた。