ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
クリスは部屋に入ると、バタンとドアを閉めた。
『……ど……して…?』
「全然会いに来てくれないから、会いに来ちゃった。どうしてそんなに嫌そうな顔をするの…?傷つくなあ」
わざとらしくしゅんとしてみせたクリスはすぐにその表情を冷たいものに変えてベッドに近付いてきた。
「…ベッドに繋がれちゃってさ。いつもいい子にそこで飼い主様を待ってるわけ?」
『……』
クリスの指が首輪を撫でる。
体が震えて言葉が出てこない。
「留守番中くらい外しちゃえばいいのに」
『だ…だめっ…!』
「…なんで?」
『…繋がれてるところから勝手に外したらパパに怒られちゃうから…』
「へえ、そうなんだ…。あとは?」
『え?』
「他に、パパから禁止されてること」
『…パパがいいよって言った人以外と…熱を分かち合うことしちゃだめだって…』
「……熱?なにそれ」
その時私は、前にクリスの部屋で起きた出来事を思い出した。あれは熱を分かち合う行為だったのではないだろうか?…でも、あれはクリスに無理やりにさせられたことなのだから、きっと…パパの命令にそむいたことにはならないはず…
「おい」
『…っ!!』
「…まぁ、いいや」
そう言ってクリスはベッドに上がった。
部屋をキョロキョロと見回している。
「ここがアッシュの部屋かぁ………あれ?そういえばケージがないじゃん」
『…ケージ?』
「は?お前の寝床だよ。ペットなんだからそういうのがあって当然…えっ、もしかして…アッシュとお前、ベッドで一緒に寝てるわけ?」
クリスの瞳が一気に鋭いものに変わった。
私は恐怖に包まれる。
なんて答えたら良いんだろう…
答えを間違えばまた痛いことをされるかもしれない。
「…どうなんだよ」
『っわ、わたしは…床で…』
責め立てるようなクリスの視線に耐えきれず、私は咄嗟に嘘をついた。
「…あぁ、床?そっか、そりゃそうだよね」
ボフッと音がして目を向けると、クリスは布団に顔を埋めていた。
「…はぁ…、アッシュの匂いがする」
まずい、バレたら大変だ…!
私の心臓がバクバクと騒ぎ出す。
『あの!…アスラン、今パパのところに行ってて…』
「知ってるよ」
『じゃあ、なんで…?』
「だから、さっき言っただろ?
…会いに来たって」