ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
アスランが部屋を出ていって少し経った。
私はまたあのモールスの本を読んでいた。
『……I…LOVE…YOU…』
伝わらなかった私からのメッセージ。
もし、あの時アスランに伝わっていたら…そう考えた途端、顔は熱を持ち心臓が暴れ出す。良かった、伝わらなくて良かったんだ。少し寂しいけれど、アスランを困らせずに済んだのだから。それに伝わらなくたって、アスランへの想いはもう止められないと私は知っている。
「…これが…Aで…Bはこう…」
アスランは私が全部の信号を覚えていると思っていたみたいけど、あの文字列だけを何度も練習していたから他の文字は覚えていなかった。私はぶつぶつ言いながら順番に繰り返す。こうしていると留守番中の長い退屈を紛らわすことができる気がした。
その時、部屋のロックを解除する音が聞こえた。
あれ…?アスランが帰ってきた?
今日はパパと少しお話をするだけだったのかも!
私は嬉しくなって、読んでいた本をベッドサイドのテーブルに戻しドアを見つめた。
ガチャ…
『アスラン!おかえりなさ……っえ?』
ドアが開いた先にいたのはアスランではなく、何度か見かけたことがあるスーツの男の人だった。
『…え…あ、の?』
「マーク、ありがとう!…やぁ、ユウコ!」
マークと呼ばれた男の影から出てきたのは…
『……ク、リス…?』
そう、私の目の前に現れたのは紛れもなくあのクリスだった。