第2章 幕開け
翼の返答に、口元に拳を添えて頷いて見せる煌。
しかし、煌にとってその答えは満足のいくものでは無かったらしい。
口元に拳を添えたままで煌は僅かに首を傾けた。
煌「で、特徴と名前は?」
翼「僕の一学年上の先輩で、髪は-…今は赤茶に染めてたんじゃなかったかな?で、名前は泉 飛鳥」
煌「泉 飛鳥君か。有り難う、翼君」
翼が述べた男の特徴と名前を聞き、すかさずメモを取る野崎。
そんな野崎の様子はお構い無しに煌は再び人当たりの良さそうな笑みを貼り付け、片手をひらりと上げた。
煌「助かったよ、じゃあ授業頑張ってね」
未だメモを取り続けている野崎など気にする必要も無いとばかりに、煌は車へと戻って行く。
さっさと車に乗り込む煌、慌てて車へと駆け寄り運転席へと乗り込む野崎。
二十代である煌とは二十程歳の離れた野崎、駆けた事により僅かに息が切れてしまっていた。
次に指示され向かったのは、とある一軒家。見るからに一般家庭といった、二階建ての組み立て建築の家屋であった。
表札には【黛】と書かれていた。
煌が呼び出しブザーを押すと、直ぐ様応答があった。
黛「あ、ここ、煌さん!!」
煌「黒兎、僕が知らせに来るまで良い子にしてたかい?」
吃音症なのだろうか、そう野崎に思わせてしまう程に吃りつつ紡がれる言葉は煌の来訪を喜んでいるかの様であった。
黒兎、そう呼んだ男に対する煌の顔も話し方も、やはり先程の二人とは異なるものだと野崎は感じた。
一体どれだけの顔を使い分けているのか、野崎はまた僅かに煌への恐怖心が煽られた気がした。
黒兎「う、うん!おお、俺、し…仕事、が、頑張るからっ!こ、煌さんの役にた、立ちたいんだ!」
煌「流石は黒兎。じゃあお披露目は明日だ、明日此処に迎えをやるからね?」
「はーい!…へへっ」
インターホンのみで会話を終了させてしまう煌、にも関わらず終始嬉しげであった男。
その様子はまるで、子供が父親に甘える様なものであった。野崎はそんな風に考えていた。