第2章 幕開け
世の中上手く回る物だ、野崎は信号待ちの最中、そんな事を考えていた。
良い事をしようとする善意に同意する者が居る様に、悪意に同意する者も居る。
何より、逆らえずに共犯者となってしまった野崎に煌を責める事など出来る筈が無かった。
そして、煌と野崎は出社した。
時間は過ぎて、煌は定時で仕事を切り上げ様としていた。
野崎は車を会社前に移動させる為、先に会社を出ていた。
不意に社長室を訪ねてきた者が居た。
煌「白銀さん…何か用でしょうか?」
白銀「面白い話を小耳に挟んだものでな」
白銀 吟。煌が社長職に就く前に、この会社の社員だった時の上司であった男。
漆黒の黒髪を僅かに揺らし、煌の前まで歩み寄る。
煌は苦手なのだ、腹の底の知れぬ自分と似た一面を持つこの男が。
白銀の言葉にしらばっくれる様に、不思議そうに首を傾ける煌。
すると次の瞬間、バンッという激しい衝撃音が社長室に響く。白銀が煌が使っているデスクに右手を思い切り叩き付けた音であった。
ビクッと肩を跳ねさせる煌、笑いもせずに冷たく突き刺さる様な視線を向ける白銀。
白銀「肉奴隷、だ。惚けるならマスコミに売ったって良いんだ。紫月グループのスキャンダルか、さぞかし高値が付くだろうな?」
煌「ち、ちょっと待ってくれ…何が目的なんだ?」
白銀には話した覚えも、元より話す気すら無かった煌。珍しく動揺が隠せない様子で、慌てて問う。
不意に社長室の前を歩く足音が聞こえてきた。すると、フン、と鼻で笑っては白銀は煌の頭を掴んで顔を寄せた。
白銀「その調教師とやらに俺も加えておけ」
煌「……なっ」
一言だけ吐き捨てる様に告げて、白銀は社長室から出て行ってしまった。
煌は、先程白銀が殴った自らのデスクを見ては、拳でデスクを殴り付けた。
煌「有無は言わさない、てか?誰に…この僕に?っ!!」
何様のつもりだ!そんな言葉を飲み込む為だとばかりに、バンッ!と再び響いた音と共に、煌の手のひらは自らの爪が食い込んで白く変色しては、真っ赤に変わっていった。