第9章 バースディ
7月。ロシアの夏が来る。
夏と言ってもロシアの夏は日本の初夏ぐらいでとても過ごしやすい。
人々は短いこの夏を謳歌する。
ウルイープカも今日から2週間の休暇に入る。
日々人も夏季休暇中なので、1週間以上もずっと一緒に過ごせる。
しかも7月15日、今日はわたしの誕生日。
日々人がお祝いしてくれることになっている。
朝、せっかくの休暇だから目覚ましもかけずゆっくり朝寝坊しようと言っていたのに、ワクワクしすぎて目が覚めてしまった。
となりを見ると、日々人がまだ静かな寝息を立てて寝ている。
トイレに行こうと静かに布団を抜け出そうとすると、ガシっと日々人に抱き寄せられる。
「おはよー…。」
まだ眠そうな声がかわいい。
「おはよう。」
くるりと向きを変え、日々人の腕の中に収まる。
「誕生日おめでとう。」
ぎゅっと抱きしめて言ってくれる。
「ありがとう。」
わたしも日々人を抱きしめ返す。
ふー、と満足そうに鼻から息が漏れる。
眠いのか目はまだ閉じたまま。
しばらくじっとしていたけど、トイレに行きたかったのを思い出し、「トイレ行ってくるね。」と抜け出そうとするが、ぐっと力を込めて、しかも足まで絡めて離してくれない。
「トイレだってー!!」
ぎゅーっと胸を押してもだめだから、足も日々人の足を蹴って出ようとするけど敵わない。
日々人の目はまだ閉じられてるけど、口元が笑っている。
「もーっトーイーレ!」
わたしが本気で押すと、やっと目を開けて、「じゃあ、おはようのチューしたら離してあげる。」と、キスすべくもう一度目を閉じる。
ちゅ、と軽くキスすると、「もっと。」と言うからもう一度すると、「まだだめ。」と言って離してくれない。
そろそろ本当に限界になってきたので頭を引き寄せて思い切りキスをすると、「いってらっしゃい。」と笑ってやっと離してくれた。
たまにこういうイタズラをしてくる。しかも嬉々として。
「もう!」と怒ったフリして部屋を出て行くけど、いたずらっ子の目で見つめてくる日々人がかわいくて大好きだ。