第17章 ジョニー・ストーム(F4/MCUクロス)
(……)
彼の逞しい胸元から生きる証が鼓動をする度に不思議と絆されてしまうのは、最早『ウル』のせいと言いきれるのだろうか。時々、彼の背中が小さく見える。王としての自覚を持てば持つほど孤独に苛まれて常に拠り所を探すような、どこか憂いのある儚げな姿に俺自身が絆されてしまうのでは。
「ソー」
「……レイン」
まだ居心地が悪そうに俺の名を呼ぶ彼の肩に腕を回し、美しく煌びやかな金糸を掻き分けてゆっくり撫ぜる。程よく陽に焼けた首筋に「ありがとう」と呟きを落とせば、ソーは穏やかな抱擁を返してきた。
(3)
出掛けるのは構わないが護身のために俺を連れていけと言ってきかないソーを仕方なく相伴させて街に出る。朝刊のせいで市民の目が痛いかと思いきや、俺の後ろを忠実に着いて回るソーが物珍しいのか、大体の視線は俺の頭を越した。想定していた混乱は起こらなかったが、まさか本当に身を護って貰う結果になるとは……。
「ソー、お腹空いてるか?」
「言われてみれば空腹だな」
振り仰ぐとソーは緩やかに破顔し、少し眉を下げて申し訳なさそうに返事をする。きっと俺が財布の捩じ込まれたジーンズの尻を叩きながら問うたから『今から自分は奢られるのだ』と察したのだろう。俺を護ってくれたお礼なんて言わないから、せめて地球の料理をたくさん食べて帰って欲しいと思う。
「なにか食べたいものは?」
「ミッドガルドの料理は余り詳しくないんだ」
「そうか……。アスガルドだと何をよく食べてる?」
「肉や果物だ。母上がご存命の時はバランス良く食べる様にとよく叱られていた。今は食への興味が昔より減ったせいか偏った食事はしなくなったと思うぞ」
「なるほど、酒に目がなくなったわけか」
「ご名答」
悪戯っぽく笑うとソーも満更でもない表情をする。人間の中にも飲酒が許される年齢になると『食べる』事より『呑む』事の方が好きになったという人も少なからず居るし分からなくもない。酒場に行く提案もしてみたが、今は空腹だから食事がしたいと笑って楽しそうに俺の背を叩いた。
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