第17章 ジョニー・ストーム(F4/MCUクロス)
そんな新聞社と俺の経緯を知っている皆だからこそ過剰ともいえる気の揉み方をしてくれたのだと分かる。今はまだ遠征任務に就いているスティーブの耳にこの情報は入っていないようだが、時間の問題だ。どう説明しても俺の兄を気取っている彼は言い訳を聞かないだろう。嗚呼……本当に疲れた。
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シャツを羽織った時には遠雷が鳴ったから嫌な予感はしていたのだ。部屋を出た矢先にソーが入り口を塞ぐようにして立っていた。北欧神話の神がこうも頻繁に地球へ来訪して良いものなのだろうか。暫く目が合っていたが何も切り出さないので黙って横を通り過ぎようとすれば、いつも通りの力加減を忘れた熱い抱擁……もとい体当たりをかまされ、廊下に俺の無様な悲鳴が響き渡る。
「ぎゃっ」
「お前が悪漢に乱暴されたと耳にして、いてもたってもいられなかったんだ! ヘイムダルは『心配要らない』と言ったが、やはり自分の目で無事を確かめておきたかった!」
「乱暴はされていない」
「未来の妃が清廉でないなどと父であるオーディンにどう説明したらいいか……考えるだけで血の気が下がったぞ」
「わかったわかった」
幼い子どもが不安で仕方なくなった時に全力で抱き締める草臥れたぬいぐるみの気分を味わいながら、ソーの咆哮を額で受け止める。ウルトロンとの激戦の直後から始まったソーの熱烈な求婚に対して、アベンジャーズの皆以外が散々に非難してくるくらい手酷く袖にしているのに、どうしても彼は諦めてくれない。
矜持を捨てて『俺はスティーブを愛してるんだ』と明かしても『交際もまだなら俺の入る隙は充分ある』と王族らしい余裕のある笑顔で尊大なお言葉を頂いてしまい、呆れを通り越して哀れに思ってしまったら最後、それきり彼の自由にさせているのが不味いのだろうか。
「……ところでレイン。今からどこに行くつもりだ」
「昼食に出るつもりだ。何も不思議な事じゃないだろう」
「身ひとつで出る気か」
「ん? あ、うっかりしていた、財布だな。財布」
とはいえ彼は忘れ物を取りに戻ろうとしても拘束を解こうとしない。それどころか更に腕を太くして俺の首と腰をあっさりと抱き寄せた。慌てて突き放そうにも、頭ごと優しく抱き締められ「あまり心配させるな」と悲痛に囁くバリトンボイスが内耳を満たせば例の如く俺の膝は笑い始めてしまって。
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