第5章 あなたのためなら
「キャプテン…今のはさすがに言い過ぎなんじゃねぇすか」
ドアの前で聞いていたらしいペンギンがローに声をかけた。
ペンギンの後ろにはシャチも、ローのに向かって並ぶ。
「そうだよキャプテン。リンが出てっちゃったよ、どうしよう…」
ベポはあわあわと廊下を行ったり来たりしている。
ローは、リンが床に落としていった小さな箱を拾った。
まさか出ていくなんて思わなかったと言ったら、ただの言い訳になるだろうか。
いや、そんなのは嘘だ。
何も言わずに船を出ればいいと言ったのは自分だ。
火拳屋の所へ行けばいいと言ったのも自分だ。
リンは言われたことをやっただけであり、何も悪くはない。
なのに、今になってなんであんなことを言ったのだろうと自分を責める自分が居た。
そして、なぜ出ていってしまったのかと、リンを責める気持ちすら湧いてくる程であった。
「キャプテン。…リンを追い掛けに行こうぜ。今ならまだ間に合う。」
そうだ。
今ならまだすぐそこにいるはずだ。
まだ手が届く所にいるはずだ。
そして船に帰ってきてもらえばいい。
ローは手にぐっと力を入れた。
何が入っているのか分からないが、その小さな箱は、手に力を込めるには大きすぎる程であった。
「……アイツが出ていきたいんだろ。それを止める必要はない。俺は追わねェ。」
気付いていたら、ローの口は思ってもいないことをすらすらと述べていた。
掴んだつもりでいた。
その手を1度掴んで、もう離さない。
そう思ってた。
リンを守ってたつもりだった。
手を掴もうとしても、
掴んでるふりだけ。
避けていたのはリンの方だった。