第5章 あなたのためなら
「火拳屋の所に行きてェなら、明日も行けばいい。」
こっちには、明日なんかないのに。
「俺には何も言わずに船を出ろ。今日みたいにな。」
船を出たくなくても出なきゃいけないよ、私。
「あんなに楽しそうだったもんな。悪かった。俺が邪魔だったようだな。」
ローは後ろを向いたまま、低い声で呟いた。
「リン、おまえ火拳屋と航海をしたらいいんじゃねェか?強いみてェだし、充分守ってもらえるだろ。」
“火拳屋と航海をしたらいい”
リンの中で、何かが弾けた。
意味わかんない。
何かが体の中を駆け巡っている。
苦しい。
言葉にならない言葉が、頭の中で弾ける。
意味わかんないよ。
「ごめん…そうだよね、ごめんね。」
自分でも何を言っているのか分からないまま、早口に口走った。
いつの間にかドアの方へ足が動いていた。
何かがコトンと落ちる音がしたが、そんなものに構っていられなかった。
リンは早足に部屋を出た。
そして、隠してある荷物を取り出し、そのまま船を出た。
いつも私は
ただ、
ただ、
私はもがくだけだったんだ。