第5章 あなたのためなら
「ちょっと遅くなっちゃったかな。」
早く、一刻も早くローに会いたい。
あの帽子に触れて、手に触れて、体に触れて―――。
最後の“すき”を。
「あっ、リン!!」
「ベポ!ローは…」
「キャプテン、リンが居なくなってからすぐ街に行って、リンを探してたんだけど…」
探してた…?
「丁度さっき帰ってきて、そのまま部屋に閉じこもったままなんだ。リン、街でキャプテンと何かあった?」
「っ…!!」
リンはそのままローの部屋に一直線に向かった。
「ロー?」
ドアの前で声をかけるが、中からは何も聞こえない。
“リンを探してたんだけど…”
探してた?
私がエースと街にいる間、ずっと探してた?
明日去っていく私を、一日中探してくれてたの?
ドアに手をかけ、静かに部屋に入る。
ローは机に向かって本を読んでいた。
「ロー、えっと…今日はごめんね。勝手に出てっちゃって…」
ローは振り向かない。
怒らせてしまったのだ。
当たり前だ。
勝手に船を出て、一日中探させて、のこのこ帰ってきたのに怒らないはずがない。
「どうしても行きたいとこがあったの、1人で。」
ローはこちらを少しも見ない。
ローにあげたかったの。
ローのためだけを思って作ったの。
勝手に船を出たのも、ローにバレたくなかったから。
喉の先まで色んな言葉が出てきているのに、全て泡になって弾けていく。
私は必死に弾けた言葉をかき集める。
胸が、痛い。
「ごめん…どうしてもローには内緒しておきたくて…」
最後の文字を喋るか喋らないかという時に、リンは床に倒されていた。