第5章 あなたのためなら
「お嬢ちゃんとお兄ちゃん、よく来たねぇ。何か彫ってほしいものでもあるのかい?」
おじさんは人の良さそうな顔で店の奥から出てきた。
「えぇ、このブレスレットに…これを彫ってほしいの。お願いできるかしら?」
ハートの海賊団の海賊旗。
「ほう、これはまた珍しい腕輪だね…差し支えなければどこで買った物か教えてくれるかい?」
おじさんは少し目を見開き、眼鏡をかけた。
「おじさん…何か知っているの?これは私が作ったものだけど。」
「お嬢ちゃんがこれを…!!」
「これそんなすげェやつなのか?」
店の中をうろついていたエースが顔を挟んだ。
「これは…お嬢ちゃんそのものだ。」
「リンそのもの?どゆことだ?」
エースは帽子を被り直し、首を傾げた。
「これを身に付ける者は、お嬢ちゃんの力に守られるってことだ。噂には聞いた事があるが、作れる人も、本物を見たのも初めてだよ…。」
ローのために作ったブレスレット。
私が海軍に行っても、ローの傍に居られるように。
「リンが作ったあのブレスレット、すげェんだな!おれびっくりしたぜ。」
「エースと違って私は強い訳じゃないし、こんな物しか作れないもの。私はエース達みたいな強い人達の方がすごいと思うわ。」
“これは…お嬢ちゃんそのものだ。”
海軍に行ってもローの傍に居る。
私は、
どこまでもずるい。
ブレスレットは、空に浮かぶ赤い夕日そのもののように光り輝いた。