第1章 二年一組
笑った顔も素敵です。そう正直に答えると、目の前の美人さんはおかしそうにまた笑った。
「ありがとう。…でも、寝ている人を描こうなんて…アタシだったから良かったけど、変なヤツも居るから止めた方がいいわよ」
「で、ですよね…気を付けます」
ん?アタシ、?
一人称に若干疑問があったものの注意をされてしまった以上は直さなければと深呼吸をする。
「部活が休みだからって浮かれてたわ。帰って勉強しなくちゃ…!じゃあ、また」
「は、はい!」
にこ、と口元を上げてからひらひらと手を振って颯爽と荷物を取って教室を出てしまった美人さん。
名前を聞くのを忘れたことに少ししてから気付き廊下に急いで出てみても、まるで誰もいなかったかのような静寂に包まれていた。
そこでまた自分が夢のような出来事に浸っている事に気付き、先生を探さなければと一瞬で血の気が引いていくのが分かった。
一難去ってまた一難とはこの事か。と、つくづく要領の悪い自分を恨みたくなる。
でも、手元に残った美人さんの横顔を見ては自然と口角が上がり、部室に戻るのが少しだけ怖くなくなった。
「…あ、お帰り。遅かったね」
「ごめんね花ちゃん。…えっと、先輩達は?」
唯一の同級生の部員である、池上花ちゃん。
運動と美術的センスはずば抜けて高い。けど、本人曰く「勉強はセンスじゃ無理」らしい。
先輩達はもしかして、私があまりにも遅いせいで帰ってしまったのだろうか。とか、色々考えていると背筋に嫌な汗が伝う。
「あぁ、あんたのせいじゃないから。部活は基本六時まででしょ?今日は早めに帰ったんだよ」
「そっか、良かった…」
仕事は押し付けるけど、呆れて帰ったりなんかしないよここの部活の人達は。
私が心配している事を察したのか、付け加えるように話してくれた花ちゃん。
「…そうだね」
誰にも言えないけど今日は良いことがあったし、なんだか気持ちが軽い。