第3章 洛山高校男子バスケ部
「初遅刻だね、おめでと」
「…遅刻なんて絶対するもんかって思ってたのに」
朝のホームルーム直後。
この日まで私は遅刻をしたことが無く怯えながら教室のドアを開けると、先生もクラスメイトも意外と軽く、「あぁおはよう」と言われただけだった。
「新聞貼られた日は遅刻して来る人が多いから慣れてるって言ってたし、良かったじゃん」
「余計に良くないでしょそれ。私その一人になっちゃったんだ…」
バスケ部の事で学校内がもちきりだということは花ちゃんも知っていたらしいので、特に事情は効かれなかったものの、それだと私が実渕さんに特別な意識があると誤解されていそうで、複雑だった。
簡潔に言えば、あの人は私の画材なんだ。
…許可が降りたら、だけど。
「そんなに気になるなら、バスケ部観に行ったら?」
すとん、と花ちゃんのアドバイスが腑に落ちる。
無意識にも話したい見たい、という気持ちは大きくなっていてただの画材なんて誤魔化していたけど、新聞を見たときにも感じた実渕さんのもうひとつの顔を、もっと近くでも見てみたい。
初めて会った時の、溶けてしまいそうな白い肌を包み込むようにオレンジに染まっていた太陽の下で、あの人は普段どんな顔をしているのかな。
全力でスポーツに取り組む姿も、あの人は綺麗なのかな。
「…でも、部活」
いくら見たくても、部活をサボってしまうのはどうしても避けたい。
花ちゃんは、そんな私を見て察したのか「大丈夫」というように黙ってから口を開いた。
「資料収集って事で抜けちゃえば?…というか私もかほが夢中になってる美人さんとやらを見てみたいし。
大丈夫だよ、私も一緒だから」
普段のクールで辛辣な物言いの花ちゃんからは考えられないような優しい口振りに拍子抜けしていると、「なにその顔」とすぐに突っ込まれてしまった。
優しいのは一瞬だけかと思ってしまったけど、そのあとも花ちゃんの表情は柔らかくて、安心した。
「初遅刻で、初サボり、か…」
「…だから資料収集って言ってるでしょ」