第8章 タイムリミットとクローバー
「ほら、お好みでバルサミコもどうぞ?」
『は、はい…』
「スムージーもあるから先にそっち腹に入れてみ、ゆっくり食べれるか判断してけばいい」
『ひゃい、ッ』
あー…やっちまった。
完全に混乱させてるこれは。
嫌ではなさそうだし拒まれも泣かれもしなかったが、物凄くテンパっている。
そりゃそうだろ、付き合ってた男が記憶なくしてんのにいきなり自分にキスしてくるとか。
俺も俺でびっくりはしたけど不思議と後悔はしていないらしく、寧ろこんな風に慌てるこいつを見て余計にもっとしてやりたくなるような…って、さすがにそこまでいくと気持ち悪いか。
あんまり気持ち踏みにじるようなまねしたくねぇし。
『……あの、…な、慣れてるんですか、??』
「ぶっ、!!!」
思わず吹き出した。
慣れてるわけあるか阿呆、初めてだよこんな事すんの!!
『ま、間に受けちゃう人もいるからその…や、やたらめったらするのは、あの…っ』
「…俺何気に初めてなんだけど」
『ふえ!!?』
「やたらめったらとかしねえし…いやまあ、許可も取らずにいきなりしたのは謝る」
そうか、そういう判断をされてしまうか。
こいつさては超絶純情野郎だな。
「……でもその、なんつうか…すんげえ可愛かったから、お前が」
つい。
本心をありのまま話すしかなかった。
決して元々恋人だったからとか、そういう甘えが出て出来心でやったわけではない。
そこまで不誠実に向き合いたくはない。
ただ、単純に今の俺の意思だ、これは。
『……く、口説くの慣れてる…、』
「ちげぇよ、こっちだってすげえ混乱してんだ、こんな感覚初めてで」
『…他の人、にも…思ったら、するんですか……?』
声を小さくして、問われるそれにバッとそちらに顔を上げる。
すると俯いてしまっていて、よく顔は見えないけれど。
俺のするはずのない返答をしてしまえば、すぐにでも壊れてしまいそうな。
「……しねえし、多分思わねえ。思った事ねえから、こんな風に」
『…そですか、』
「まあない話だし、そんなに女にだらしなくねえよお前の上司は…お前が嫌なら、絶対しない。約束する」
『え…と、……なんで、』
「なんとなくだ」
よくよく考えてみれば、そんな発想に至るのだって、俺のことが好きだからだろうが。
なんて、分かりやすいんだろう。
『……うん…っ』
