第8章 タイムリミットとクローバー
「わ、悪い…なんか勝手に撫でちまってた」
『、?…終わり?』
「!?い、や……お前、嫌じゃねえの?」
『……うん』
やけに、安心したような。
嬉しさを噛み締めているような、そんな表情を背けられる。
もしかして好きなのか、こいつは。
撫でられんの。
「…なんでだろうな、落ち着くわ。俺も」
心からの言葉だった。
この髪に触れているのが…この子の体温を感じるのが。
どうにも、心地よすぎてこのままずっといたいとさえ思ってしまう。
『……あの、中原さ「俺はリアちゃんっつってんのに、中原さん呼びなわけ?」え、』
想定外の返しだったのだろう。
ああ、なんだか照れくさいのとか柄じゃないのとか、どうでも良くなってきた。
「名前、呼んでくれ」
本当はそう呼んでたんだろ。
『……中、也…さん、?』
「おー、それでいい。改めてよろしくな、リア」
『ぁ…、う、ん』
しっくり来た。
この少女を前にして、彼女の名前を口にするのに。
だから、どうも白縹と呼びたくはなかったのだろうか。
また、泣きそうな顔をするのに幸せそうで。
そうか、ずっと呼んで欲しかったのか、こいつも……俺も。
「もうほとんど完成してるけど、スープに何か入れるか?お前、火通せば玉ねぎも食え…た、よな……?」
違和感がないことへの、違和感。
俺が、知っているはず無かったのに、そんなこと。
『…うん、リア何でも食べられるよ!』
「……好きな野菜は?」
『茄子!』
「じゃあ明日は茄子使おうな」
『うん、…ぅ、???』
ポンポン、と頭を撫でてやると嬉しそうにはしゃぐのだが、何か疑問があるらしい。
『明日、?』
「え?お前俺と一緒に飯食ってくれるんじゃねえの?」
『…!い、いいよ…食べたげる……そ、そんなに食べたいならいいよ…!』
「ん、約束な」
なぜか、そんな風習今まで自分にはなかったはずなのに、小指を出していて。
そこにゆっくりと、こちらの様子を伺ってから自分の小指を絡めてきたリアがたまらなく愛おしく感じて。
「んじゃ、食べるとしますかね」
盛り付ける直前に、思わず彼女の背に腕を回して抱き寄せて、無意識に…と言うよりは、無性にしたくなってしまって。
『っえ、何し…、』
「…ご馳走さん」
彼女の額に、口付けていた。
唇は何とか避けた…避けることしか出来なかったのだ。
