第8章 タイムリミットとクローバー
和食に洋食、それに中華。
ありとあらゆるジャンルの食べ物が調理され、詰め込まれている。
包みを開けると一膳の箸と、丁寧な字で書かれた回復祝いの小さな紙。
達筆な大人のような字を書くんだな、書道でもやっていたのだろうか。
数えてみれば、実に十箱十五段。
こんなものを手作りで…?
半信半疑に中身を見るも、どれもクオリティが高すぎてレストランにでも作らせたのではないかという程の出来栄えに盛り付け。
何もんだよこいつ。
試しに一口、オーソドックスに卵焼きを口に入れてみる。
どの味付けをしているのだろうと思いつつ口に運んだそれはだし巻き玉子だったらしく、出汁に醤油に砂糖を混ぜた、俺の一番食べ慣れた味。
弁当の見た目を気にして砂糖派が多かったり、手軽に醤油だけだったりするものを。
本当に俺の好みまで把握している作りだ、これは。
焼き物に揚げ物、和え物、一段分ずつ手をつけていくのだが、自分の舌が物珍しさを感じるような味付けは一切なくて、それこそ食べ慣れたというか、親しい味というか。
食べていて、一切の違和感がないのだ。
五段毎に主食が挟まれていたり主菜や副菜がループしているのを見たところ、三食分作ってくれたということになるのかもしれない。
それも、やけに栄養バランスが満たされきっているような。
こんな物量で愛情込めてんじゃねえよ、良妻かお前は。
『、ん……』
五段分…つまりは恐らく一食分。
食べきって少し余韻に浸っている頃に、腰元に腕を回して来ていたそいつが起きてくる。
「…よお、目ぇ覚めたか?」
『ん…おはよう中也さ……ん、え…あれ、…』
「?なんだよ、そんなにビックリして」
『…わ、私寝て、た…?』
「寝不足だったんだろ?いいじゃねえか寝るくらい」
ガバッと体を起こしたそいつは顔を青くさせかけていて、まるでやってしまったとでも言うような…っておい、待て待て待て。
『い、いや、ちゅ……ち、ちっさい幹部のこと抱き枕にするとか有り得ない、し。…今度から気をつけ、っっ!、?』
が、寝台の上だということを忘れていたのか、後ずさったところでずるっと支えを失い、転倒しかける白縹。
それを思わず腕を引いて抱きとめれば、間一髪間に合った。
「っぶねぇ…お前周りちゃんと見ねえと危な、……い、から…、」
見ると、耳の先まで真っ赤にして、震えていた。
