第8章 タイムリミットとクローバー
長らく、両親などというものを見聞きしては来なかった自分だが、そんな人間が存在しているだなんて話は初めて聞く。
普通は逆だろう、自分たちの生んだ子供が被害者で、それを責め立てて追放するだなんて。
「…立原から、こいつが不眠症だとは聞きましたけど」
「そりゃあ夜もおちおち眠れないよね、生きてるだけで不安だらけなんだから」
「味覚がやられて食欲不振だとも…さっきも昼飯、戻したらしいです」
「おや、それは初耳だ、さてはまた隠してるつもりだったねこの子は?」
少し考えてから、あ、そういえば、と何かを思い出したかのようにして、首領は私室から大きな包みを持ってきて…えっ、なんだそのでかいの、何が入ってるんすかそん中。
「はい中也君、ご飯まだ食べてないでしょう?お弁当♡」
「はぁ!?そんなでっかい弁当見たことも聞いたこともないですよ、何人前ですかそれ!!?」
「リアちゃんの手作りだよ?」
「!!!」
全力でつき返そうとしたのを、ピタリと勢いを止めて弁当箱の包みを見やる。
手作りって…この量を??
「興味出たでしょ」
「い、いや興味っていうか…」
「一昨日の夜に、初めて君が強請ってくれたんだって言ってたよ?手作りのお弁当って。だから、毎日作って恩返しするんだってさ」
「恩返しって、何のですか」
「それは流石に君とリアちゃんにしか分からないんじゃないかな…まあでも、本人にはお弁当の作り手を教えないでくれってお願いされてるからくれぐれも頼むよ?」
じゃないと僕が殺されてしまう。
立原と同じようなことを言う首領に、また疑問がわく。
「じゃあどうして俺に教えるんですか?気持ちはわからなくもないですけど、本人たっての希望なんでしょう?」
「…だって、それじゃああんまりにも報われないじゃない。こんなにいい子なのに」
「…」
まあ、そういうことだからちょっとずつでも食べてあげてよ。
なんて言われてしまえば、食べない気にもなれなくなるのは必然で。
「なんならその子にも食べさせてあげて欲しいところだけどね…ああでも、中也君に作ったものだからとか言いそうだなぁ、大いに有り得る」
「そんなに食に関心ないんですかこいつは」
「関心っていうかほら、今頭の中中也君の事でいっぱいいっぱいだろうから。頑張ってるんだよ、リアちゃんなりに」
……食うだけで、いいのなら。
