第8章 タイムリミットとクローバー
「はは、いい光景だねぇ中也君。可愛いだろうその子、可愛くて可愛くてたまらないだろう」
「首領、冷やかしならやめて頂きたいんですが。しかも俺がこうしてベッドに入ってるのはこいつが離してくれないからでですね」
「振り払って出て行けるのにかい?」
そこを突かれるとなんとも言えなくなる。
確かに離そうとはしたし、とっとと執務室に戻ろうともしたが。
こんな風に抱きついてきてる子供を無理矢理引き剥がすほど、俺にも人の心がないわけではなくて。
「…そうだ、こいつ今日仕事は…?」
「昨日のうちに五日分は進めてくれているからね。さすがに僕も寝かせてあげたいと思っていたところだ」
五日分!!?
思わず聞き返せば、それも二人分ねと苦笑いで返された。
そういえばそんな話していたような。
「中也君起きたら絶対仕事って言うだろうからって、休ませててって頼まれてるんだよ。自分が全部やるからって」
「…首領、こいつ俺の知り合いですか?」
「おや、誰かから聞いたかい?リアちゃんが言うとは思えないけど」
「ええ、まあ」
「…そうだねぇ、何て言えばいいかな。一言じゃ流石にまとめられないけど…君はこの子にとって、恐らく世界で一番大切な人だから」
そんな言い方をされるとは思いもしなくて、固まってしまう。
いや待て、恋人って話だったんじゃないのか。
それが…俺みたいな奴ならともかく、こんな子供の一番って、どんな生き方をしていたらこんなろくでなしが一番なんぞになる。
「一番ってまた大袈裟な、家族とか親とかいるでしょう」
「いないよ」
「…死んだとかですか」
いいや、逆だ。
首領の言葉の意味が分からなくて、頭を悩ませる。
するとあちらからその答えを、恐らく仕方なしに教えてくださることになった。
「殺されたんだよ、家族…それも実の親に。戸籍ごとこの世界から揉み消されて、いなかったことにされたんだ」
名前も変えて、苗字ももちろん名乗らせてはもらえずに。
訳アリの人間はこんな組織じゃよくある話だが、そんな話は聞いたことがない。
「……何か相当なやんちゃでもしたとかです?」
「それもまた逆だね。どちらかというとただの被害者だよ、詳しくは流石に僕からは言えないけど…新聞に載るレベルの事件の被害者でね?名家の名前に傷がつくから、うちとは関係ありませんって消されたわけ」
