第8章 タイムリミットとクローバー
「ああ、結局視てた通りか…まあでも、戻らねえって決まってるわけじゃねえんだろ?思い出してもらえる可能性もあるわけなら」
『バクに虫食いにされた記憶繋ぎ合わせて封印解除するとかどんな力技よ、無理に決まってるでしょ』
だいたいそれ以前に近日中に私の方が死んじゃったりしてね、とっとと妖怪にでも食べられちゃって。
茶化して言うような、聞き覚えのある女の声。
「お前が言うと冗談に聞こえねえっつの…って、そうかお前シークレットサービス…!!」
『お分かり?立原君。まあそういう事だから、いきなり死んでたらバイバイってことで』
演技でもねえことをサラッと言ってのけるそいつとテーブルを挟んで話をしているのは…立原?
お前、なんでそいつと飯なんか食ってんだよ。
しかもやけに親しげに。
コソコソしているのにいい心地はしないが、とりあえずは様子見だ。
テーブルに山ほど並んでいる食堂の料理には最早突っ込むまい。
「シャレになんねえってそれッ、…お前この前だって夜一人で出歩いて五十二匹相手にしてたばっかりだろうが」
『大したことないわよ、前の生活に戻っただけ』
「お前にとっては大したことだろどう考えても。命狙われ続けてんだぞ!?」
立原が声を荒らげるのも珍しいが、その言葉に引っかかった。
狙われてる…どういうことだ?
それも、さっきから聞いていればシークレットサービスがどうのなんて。
まるで本当に誰かに命を狙われているような…
『まあまあ、ほら、折角カードあるんだし食べようよ。久しぶりじゃない一緒に食べるの』
「結構頻繁に食ってる気が…っていうか、お前さっきから全然箸進んでねえけど。珍しいっつうか、そりゃ今はそんな気分じゃねえだろうけど…」
『うん、だから立原君食べて』
「中也さんのカードって、それスってきたんだよなぁ?今日は無許可だろ?」
今日は。
どういうことだ、それじゃあまるで今日じゃなかったら許可を出しているとでも言っているような…
『ヤケ食いでもしたら気分晴れるかなって思ったんだけど…ダメだわ、味しなくなってるみたい』
「!!お前それ、味覚…?」
『多分ね。触感しか働いてないからなんか気持ち悪、…ッ……ごめん、やっぱ泣きそう』
「…こんな日に謝ってんじゃねえよ。寧ろもっと中也さんに甘やかしてもらってこいお前は」
いや、お前まで一体何を…?
