第8章 タイムリミットとクローバー
へたりと座り込んで、彼を見ていることしかできなかった。
私は別に、彼の身体を思ってここまで必死になっているわけじゃない。
全ては自分のためだった。
「敵は消滅した…もう休め、中也」
「…、___」
彼の異能力をキャンセルし、正気を取り戻したところで、集まり始める妖怪の群れ。
荒覇吐が弱ったところに目をつけて、押し寄せる。
「リアちゃん、撤退だ」
『…先に行って』
「君が一番危ないんだから、早く行くよ」
『いいから先に行ってってば!!』
聞いてくれない。
太宰さんまで、私の事をって…私の事を思うなら、私に中也さんを返して。
完全変化したところで、実態を持たない妖怪が即座に距離を詰めてきた。
狐火で焼いて、槍で切り裂いて、水で包んで窒息させて。
繰り返してる内に私が何をしようとしているのかようやく察知してくれた太宰さんが拠点へ戻ろうとしてくれる。
なのに、僅かに意識を残したその人は太宰さんを突き飛ばして離れ、汚濁状態に戻って瞬時に辺りの妖怪を一掃してくれてしまったのだ。
ああ、だから早く帰ってって…
「ッ中也!!?!?君っ、二度も連続で…っちょっと!!」
しっかりしないか、と声をかけられても、反応がない。
別に、亡くなったわけじゃない。
意識が切れただけだ、安静にさせていれば、時間が経てば目が覚める。
だから、何も問題は無い。
『…中也、さ……』
だけど、貴方の意識が無くなることは…散々予知してみておいて、その上で私にとってはショックな出来事らしく、触れるのでさえ恐ろしくて。
指先で彼の頬に触れ、体温をようやく感じ取れたところで、ぺたりと膝から崩れ落ちた。
『…ありがとう治さん、中也さん…すぐ止めてくれて』
「……それしか出来なかったけど」
『うん…ありがとう』
それしか、言えない。
言っちゃいけない。
だって、誰も悪くない。
そう、誰も。
『中也さん、背低いから…リアでもおんぶ出来るんだよ。筋肉ちょっと重いけど…いつもしてくれるから、今日はね。…今日は、リアがしてあげるの』
いつまでだろう。
腕に抱いたこの人が、目を覚まして…私を迎えに来てくれるのは、いつまで待てばいいのだろう。
汚濁を使っ直前に、私の唇を無許可で奪っておいて、おまけに私に待ってろなんて耳打ちして。
ちょっとだけって、いつまで…?
目、開けて…
