第2章 桜の前
逢魔が時は、純血の妖怪が活動的になり始める刻である。
今一緒にいるのが中原さんだから連勝も何も言わなかったのだろうけれど、私の悟りの能力を持ってすれば、横浜の中くらいであれば対象人物がどこにいるのかくらいすぐに分かる。
だから、やはり何かあった時に駆けつけられるよう比較的近い公園の方が場所としてはいい具合…なのだが。
『…ちょっと疲れた。休憩させて』
「あ?疲れたって、走ってきただけじゃ………お前、どうしたその顔色」
『……聴きたくないもの聴き取りすぎて今頭パンクしそうなのよ、察しの悪いシークレットサービスね』
カルタの声を探すまでの間に、どれだけの数の情報を拾ったことか。
私の場合は自分でシャットアウトできるくらいに制限できる力だからまだマシではあるが、これが制御できないほどの悟りの力であれば外出などたまったものではないだろう。
結局は意図せずして目星を付けていた公園で座らされることになったのだが…なんだ、やけに心配そうじゃないか我が上司様は。
「…お前、能力使ってそんなにしんどくなってまで必死になんのな」
『……友達の命かかってたらそりゃあね。ここからあまり遠い場所にはいないし、大丈夫だろうとは思うけど』
「阿呆、それでお前が弱ってちゃ意味ねえっつってんだよ。今俺がついてっからまだいいとして、この場で一人だったとしてお前が襲われたらどうすんだ」
考えたこと、なかった。
そんなこと。
言われて初めて気が付いた。
『…まあ、何とかなるんじゃない?』
「お前な」
『中原さんは…心配、してくれるんだ』
「俺の面子のためだよ馬鹿」
___一人にしたら益々危ねぇな、こいつ。
…考えてること、真逆なんですけれど。
なんだろう…素直に、嬉しいって思う。
『……まあいいや。だいぶマシになったし、カルタのところに向か…、?』
ベンチから立ち上がって、少し気分が良くなったので公園を出ようとした。
そんな所で、能力を使わなかったから…引っかかった。
地面から風が吹き荒れて、私の周りを囲っていく“何か”。
中原さんが私に向けて手を伸ばしたような気はしたが、それを私は目にしただけで掴めなかった。
瞬時に、私の周りが高い高い壁に覆われて真っ暗になる。
…ああ、また一人だ。
忘れてた…今日、ずっと中原さんが一緒にいてくれたから。
私、楽しかったんだ
