第2章 桜の前
「そういやお前、その髪のアクセサリーは年季入ってそうだな?」
『ああ、これは…特に新しく買いもしなかったから、同じやつ付けてるだけ』
書類も書いて正式にシークレットサービスとなった中原さんと出かけていれば、彼から私が頭につけた装飾品について触れられる。
あまりにも飾り気がないことを逆に不自然に思われたから、何年か前にとりあえず買っただけのリボンだ。
もう髪も伸びてきたためハーフアップにしてはいるが、まあ特別嫌いなわけでもないためずっと習慣で付けている。
「ふーん?…せっかく時間あるんなら、ついでに見に行ってみねぇか?お前そういうの似合いそうなのに勿体ねぇわ」
『は、はい…?…いや、いきなり何を……勿体ないって何が』
「もうすぐ高校生になるんだろ?いくつか持っといた方が違和感ねぇと思うぞ、そういう視点から考えるんなら」
___折角美人なのに。
聴こえた声に妙に顔が熱くなる。
…いや、天然なのこの人、私には全部聴こえるんだって分かってやってるわけじゃないわよね。
『………貴方が私に贈ってくれるって言うなら考えなくもない』
「!…なんだそれ………贈ってほしいのかよ」
『…どっちでも』
だって、そんな風に言われたらなんだか期待してしまう。
私に、私だけにって選んでくれる贈り物。
「…入学祝いと、契約証な。嫌でも身につけてろよ」
ぽす、と手を置かれた頭から、じんわりとまたあたたかいのが伝わってくる。
どうしよ…知り合ってまだ何日かなはずなのに。
連れて行かれるのは彼の知っている店。
その中で、妙に上質そうな飾りを見て回って…私が見ていていいなと思ったものを勝手に三つも購入されてしまっていた。
「今日はどれ着けたいですか?」
『……桃色』
「了解。後ろ向け」
シークレットサービスというより、なんとなく執事のような振る舞いだ。
双熾ほどではないけれど、かなり面倒見がいいと言うか。
『…わ、私も何か「いいってお前は」ど、どうして?私ばっかりこんなッ』
「だぁから、今日じゃなくていいっつってんだよ。自力で稼いで生活してぇんだろ?…余裕がある時でいい、無理して今日何かしようとしなくていい。俺の方が先に働いてんだから、気にしなくていいんだよこういうのは」
ああ、もう…にやけちゃいそう。
『…尻尾生えそう』
「生えたらホテルに連れ込むからな」
