第2章 桜の前
やけにそれを隠すように伸ばされた前髪の下。
何かの傷跡か何かがあるわけではなく、そこにあったのは蒼い右目とは違った、薄い紅色の瞳。
『色が違うくらいなら双熾と同じように過ごしてもいい。けど、私のこの目の色は、その意味を知ってる者からはつけ狙われるようなものだから』
「…それを、俺が知る権利は?」
『……私ね、先祖返りではあるけれど、妖怪の血が混在してる“混血種”なの』
混血種…それは、つまりどういうことだ。
人種で言うところのハーフか何かのようなものか?
なんて考えは彼女にはとっくに筒抜けらしい。
『一つは貴方が昨日見た、九尾。比較的戦闘向きの妖ね…表向きはそうやって過ごしてるわ』
「…あともう一つが、その心を読めるってやつか?」
『そうね。けど、厳密には少し足りない…心の声が聴こえるのは、それは人種で言うところのクォーター程度の割合なの。だから私はその力…悟りの能力を制限できる。足りないっていうのはね…』
九尾と悟りの力は、それぞれ少しずつ。
大元はもっと別の妖の先祖返りなのだとか。
「それが、その目の色に関係してるってのか?」
『そういうこと。……私の血肉を喰らえば、たちまち食べた者は不老不死の力を得られるんですって』
彼女の口から語られたその事実に、ようやく頭の中で筋道が立てられた。
そういうことか…だから、狙われているのか、こいつは。
口振りからして、他の先祖返りとは比べ物にならないほど敵が多いということだった。
何故かと思えば、まさかそんなことだったとは。
「それ、お前自身は不老不死ってわけじゃあないのか?」
『私は不老不死じゃあないはずよ。前世でもちゃんと死んでるからこうして転生してるわけで…ああ、前世の記憶があるのは他のみんなには黙っておいてね?先祖返り同士で前世の記憶を共有するのは禁忌とされてるから』
死んでいる…それは、寿命でだったのだろうか。
それ以上踏み込むことは…今の俺にはできなかった。
「…こりゃ骨の折れそうなお嬢さん護らなくちゃならねぇな。手前マジで下手に一人でほっつき歩くなよ、手の届くところにさえいてくれればいくらでも護ってやれっからよ」
『……逃げないんだ。…それに、今の話聞いて私の事殺そうとしないのね』
「っせえな、手前俺の部下だろうがよ。なよなよすんな、俺がなめられる」
全く、とんだ部下だ。
