第2章 桜の前
「いや、だってあれだろ?それなら変な輩に捕まることもそうそうなさそうじゃねえの。利用されるような出で立ちならそれくらいあって良かった方だろ」
「…へえ、そりゃあリアちゃんも面白がるわけだわ」
『………連勝、何勝手に教えてんの』
しれっと声を発した少女。
やけに怪訝そうな目をしてはいるが、俺の心を読んでいるのだろう。
「めっちゃ尻尾振ってんじゃねえか、威嚇すんなよとって食ったりしねえから」
『ふ、ふん………え、選ばないの…?』
「!…そうだったな、服ぐらいで悩むたぁ少しは女らしいところあるじゃねえか。俺の目の前で下着姿なのはさておいとい…、?おい、その足どうした?」
ふと目に入ったのは、彼女の左の太腿。
そこだけ包帯が巻かれている。
気付かなかった、正装なら黒いタイツを履いていたから。
『……大したことないよ。傷跡残ってるだけだから気にしないで』
「…ふぅん?痛みがないならいいけどよ……さてと、どんだけ服が…ほんっとにどんだけ服あるんだよ!!!?」
特別大きなクローゼットに、びっしりと入れられた服達。
中にはパーティー用の装いまで何着も見受けられるほど。
金持ちっつうとこんなもんなのか?
いや、けれど確かこいつは今実家からの援助は無いって…
『か、カゲ様が…見繕ってきてくれるから』
「…ああ、そういう……なるほど、こりゃ決め兼ねるのも納得っちゃ納得だわ。……全部見てっとキリねぇし、ワンピースと上着くらいでいいんじゃねえの」
『!う、うん』
ピコピコ動く耳が面白ぇ。
もしかしてはしゃいでんのか?これは…服選んでもらってるだけで。
ああ、いや…もしかして、誰かにして欲しかったのだろうか、この子供は。
「白縹っつーだけあって、よく見ると髪もそれらしい色してんな…薄めの紫とかなら季節的にも似合うんじゃねえ?ほら、これとか」
『…じゃ、あ…それ』
「………さっきは、悪かったな」
『え…、あ……もう、いいから』
口付けをしたのは、衝動的だった。
俺を遠ざけようとするその言葉が、態度が…全て、痛々しく感じられたから。
見ていられなくなってしまったから。
「そうか。…そういや前髪は伸ばしっぱなしなのか?それじゃあ視界悪いだろ」
『……私の顔なんか見ても、いいこと一つもないから』
「はあ?何を…」
少女に見せられたのは、左目だった。
