第9章 ヘイアン国
島の周囲は大渦が巻いているが、それでも何人かは救えるだろう。
「……え?」
マリオンから双眼鏡を返してもらったベポが、目をこすってもう一回双眼鏡を見た。それでも状況を理解できないらしく、「お、俺、目が変になったのかも」とペンギンに双眼鏡を渡す。
「目が変ってどういう――」
双眼鏡で島を見たペンギンまでもが目をこすって二度見した。
「俺の幻覚じゃないよね?」
「わ、わかんねぇ。俺も幻覚見てるかも――」
青い顔で双眼鏡を渡されたマリオンを、ローも怪訝に見やった。一体何が見えているというのか。
「――え?」
マリオンの反応もまったく同じだった。いい加減説明しろと言いかけ、「ちゃん……?」の単語にローは呆然とした。
「……あ?」
目をこすってマリオンも自分が見たものをもう一度確認する。それでも確信が持てずに、双眼鏡がローに差し出された。
受け取るとき、手が震えた。がいなくなったことを受け入れるのはずいぶんと時間がかかった。いまだにどこかまだ遠くに行ってしまったような気分で、が居たらなんて言うだろうと考えてしまうのだ。
幻覚かもしれないと彼らが言うものを確認するのが怖かった。夜の海に引きずり込まれてしまったと奇跡的に再会することができたとしても、その姿は変わり果てたものであるはずだった。それを目の当たりにする覚悟がローにはまだ出来ていなかった。
だが見間違えるはずのないピンクブロンドが鎖につながられるのを見た瞬間、ローは双眼鏡を投げ捨てて駆け出していた。
「キャプテン!!」
背後でベポの声がする。その声で作戦をかなぐり捨ててしまったことに気づいたが、もう止められない。
橋の警護に当たっていたキツネ面を両断して走る。肺が痛もうが傷が痛もうがどうでもよかった。
島中の兵士が集まることになろうと、今これより大事なことはない。
「ROOM―――!!」
の悲鳴が聞こえる。服を脱がせて乱暴しようとしている男の姿が目に入り、怒りで頭がどうにかなりそうだった。