第9章 ヘイアン国
アワジ島へつながる橋はナルコ大橋といい、美しい朱塗りの木材を組んで作られた吊橋だった。下は数百メートルの断崖絶壁となっており、複雑な地形と海流によって波が激しく渦を巻いている。
一度落としたら、再建はさぞ大変そうだった。少なくとも三日後の儀式には到底間に合わないだろう。
「警備厳しいねー。キツネ面がいっぱいだ」
少し離れたところから双眼鏡で状況を確認していたベポが、とても爆薬は持ち込めそうにないとうめく。
「ただ、警備してるのは人形じゃなく人間だな。ブラッドリーは橋には興味がないらしい」
同じく横で様子をうかがいながらペンギン。
敵味方関係なく共通しているのが、儀式を成功させなければならないという一点だった。さすがに島より大きな海王類に暴れられたら、ブラッドリーにもイナリにも為す術はない。
儀式の邪魔をする人間はいないとわかっているから、ブラッドリーも橋の警備に人形は惜しんでいるんだろう。リトイが自分ごと数百体を爆破し、残りはそう余裕がないはずだった。
「状況は?」
船長と一緒に「てへ」という顔にやってきたマリオンに、ベポとペンギンは目を丸くした。
「あれ、マリオン!?」
「お前もう戻ってきたのか!」
「キャプテンがどうしてもって言うから……」
「ああ?」
船長の冷たい視線にマリオンは「ごめんなさいウソです」とへこへこ謝った。
「国中から集められた女の子の第一弾が、ついさっき島に入ったところですよ」
「あ……っ!!」
双眼鏡をのぞいていていたベポが上げた大声に、みんな振り返り、ペンギンは警備に気づかれないようベポの口をふさいだ。
「お、女の子を海に捨ててる……っ」
「はぁ!?」
マリオンがベポから双眼鏡をひったくり、「あの女やっぱり爆破してやる!!」とわめいた。
「やめろ」
爆弾持って飛び出していきそうなマリオンの服を掴んでローは止める。ウニの影響かの影響か知らないが、うちは確実に最近特攻思想が増強されてる。
「橋を落としてイナリに儀式をやらせる。作戦を忘れるな」
「でも……っ」
「作戦をめちゃくちゃにする気ならここでバラすぞ」
ローが脅すとマリオンは悔しそうに拳を握って黙った。一緒に来たレジスタンツのメンバーが、船を出して娘たちを救助すると駆け出していった。