第9章 ヘイアン国
「ほ、本当に?」
「うん。それしかマリオンの故郷を助ける方法がないんでしょう? ならいいよ、やる。私は私の生まれた国のことをほとんど覚えてないの。だからマリオンの故郷は、自分の故郷と同じくらい大事」
「でも、本当に危ないんだ。山より大きな海王類に食べられるかもしれないんだよ」
「どのみちブラッドリーと戦いになるんでしょう? なら命の危険があるのはみんな一緒だよ」
の返答は爽やかで、微塵も迷いがなかった。それどころか青ざめるマリオンを励ますように、柔らかく笑ってみせる。
泣きそうになった。
「……俺、ちゃんのためになんでもするよ。どんなことでも必ず叶える」
「じゃあ、一個だけお願い。今の話、キャプテンには内緒にしてて」
「う……」
それはかなり難易度の高いお願いだった。あの船長に隠し事をするなんて至難の業だ。
「知ったらキャプテン、すごく心配すると思うの。私にそんなことさせなくて済むように、きっとすごく無茶すると思う。それでキャプテンがケガするのは嫌だよ」
「それだけちゃんのことが大事なんだよ」
「神様をぶった切るって言い出すかも」
「それは困る!!」
しかものためなら彼は本当に言い出しかねない。は笑って、だから内緒ねと人差し指を立てた。
言うことを聞くしかなかった。たとえ彼女が、海に沈んでも。
83.悪い知らせ
「……逃げられた?」
船に戻るとさらに悪い知らせが待っていた。
見張りを任されていたペンギン、ベポ、ゴンザが気まずそうに視線をそらす。3人の制止を振り切ってマリオンは逃亡したらしい。
「あいつの逃げ足を甘く見てたか……」
一度逃げ出したらもうマリオンは戻ってこないだろう。行き先にも思い当たるところがない。
(負け続きだな……)
咳き込むと折れた骨に響いた。オペして体内の出血は止めたが、オペオペの実でも骨はそう簡単にはくっつかない。
「少し休む。シャチがどうなったか見てこい」
人形破壊作戦はリトイの犠牲と引き換えに成功した。血を分けた蝋人形も失ってブラッドリーに後はないはずだ。
職人に弟子入りしたシャチがさらわれるとしたらすぐだろう。
「私も行きます。気になることもあるので――」