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白夜に飛ぶ鳥【ONE PIECE】

第9章 ヘイアン国


 数日後に報じられたのは、武力で兵がクーデターを鎮圧したという結末だった。一緒に載った写真に写っていたのは、キツネ面で顔を隠した兵士たち。
 ブラッドリーの人形が、力ずくで反逆者たちを殺したのだ。

 儀式の期限が迫る。マルガリータはもう帰れないから娼婦になると言い出した。マダムは無理強いをしないが、いつまでもタダ飯ぐらいではいられない。

 シェレンベルクの襲撃があったのは、マリオンが娼館の使いで街へ買い出しに行っている時だった。砲撃に巻き込まれて気を失い、起きたときにはマルガリータを含めた娼婦たちがさらわれ、マダムによって連れ戻されたあとだった。

「は本当に強かったの。どんなに鎖で打たれても決して負けなかった。まるで気高い女王様のようだったわ」

 さらわれた時のことを、マルガリータはうっとりと何度も語った。その時から何か予感がしていた。
 船に密航し、彼女に出会った。強くて弱い、可愛い女の子。
 は目が見えないだけの、普通の女の子だった。でも彼女のためなら命もかけられると思った。

(ちゃんは、危険でも怖くても、立ちすくまない……)

 珀鉛病に冒され、船長の命が危険なときも、泣く暇も惜しんで彼を助けるために奔走した。ブラッドリーに殴られようと怯まず、自分ごと爆弾さえ投げさせて――彼女なら海神にも怯まず、その言葉を聞いてくれる気がしたのだ。

(半人前だけど、俺とマルガリータ二人で選んだ王候補だ。ちゃんならきっと……)

 でもヘイアン国に縁もゆかりもない彼女に、祖国を救うため命を掛けた儀式に臨んでくれなんて言えなかった。
 王になれば王宮も、絹の着物も、金銀財宝もすべて彼女のものだ。だががそれに興味を示すとは思えなかった。「もこもこ一生分」のほうがまだ可能性がある(船長に却下されそうだが)。

 それでも生まれた国を放ってはおけなくて、命を何とも思っていないイナリに好き勝手させるのは我慢がならなかった。

「――いいよ」

 ヘイアン国へ向かう途中、正直にすべてを話したマリオンに、はちょっと考えた末に答えた。
 二人きりの甲板は静まり返っていたが、マリオンはその返答が信じられなかった。
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