第8章 セブタン島
抱きしめてもは黙って受け入れてくれた。怪我して痛いだろう手で背中をさすってくれて、その優しさに胸が締め付けられる。
「元気を出して。何でもするから」
「……何でも?」
ピンクがかった金髪を撫でながら聞き返すと、は「キャプテンが元気になるなら何でもする」と言い切った。
(ああもう……)
男の前でそんなセリフ言ったら最後だ。忠告したいがはわかっているような気もして、「キャプテンにしか言わないよ」などと言い出された日には理性が飛ぶので、どうしようか悩む。
「ぅー……」
「どうした?」
「手、痛くなってきた……」
「麻酔が切れたな。痛み止め出してやる」
薬箱から痛み止めは出したものの、
「、グラス持てるか?」
「うーん……」
包帯の巻かれた指にグラスを握らせても、離すと落ちてしまいそうだった。
ちょっと考えた末、ローは自分の口に薬を放り込み、水をあおってに口づける。
(ああ、柔らかいな……)
は一瞬驚いたものの、すぐに口移しで渡された痛み止めを飲み干した。それでも離そうとしないローに逆らわず、黙ってキスを受け入れる。
息も上がるほど、繰り返し繰り返しローはに口づけた。離してしまえば終わってしまう気がして、が嫌がらないのをいいことに、キスを続ける。でも不確かなキスをどんなに繰り返したって心は乾いていくばかりで。
「……好きだ」
縋るように、ローはを抱きしめながら告白した。この島でに言わないで欲しいと求められたばかりの言葉を。
言った瞬間、すごく卑怯なことをした気がした。
コラさんというずっと心の支えだった人の存在が揺らいで、心細いからを求めている。
(弱いな……)
誰かいないとダメなのだ。生きる意味になってくれる誰かがいないと、自分は世界を憎むばかりで。
何もかもを憎んで破壊を願った弱い自分に戻りたくない。そのためにを必要としている。
彼女がもし自分と同じ気持ちでいてくれたら、モアからどんな話を聞こうときっと耐えられるから。