第8章 セブタン島
「人体限定だ。穴の空いた靴下とか持ってきても専門外だからな」
「靴下の専門は誰?」
「ペンギンだろ。紹介状書いてやるよ」
「シロクマの専門は?」
「ギリギリで俺かな」
「じゃあミニベポがケガしたらキャプテンに持っていくね」
「俺でも役立たずは治せない」
「ミニベポは癒やし要員なの!」
包帯を巻いて、ローはの治療を終えた。
「しばらく水に濡らさないように。重いものも持ったりするなよ。……痛くて持てねぇだろうが」
「キャプテンは? 怪我してない?」
「ああ、俺はどこも――」
本当だろうかと、は不安そうに首を傾げた。
「ずっと指先が冷たくて、手も震えてたよ。本当に大丈夫?」
に言われて両手に視線を落とし、初めてローは自分の手が震えていることに気づいた。どうりでやけに縫いにくいと思ったわけだ。
の治療をするのに必死で、ずっと心臓がバクバクしていることにも気づかなかった。
「……信じてたものが、全部覆りそうなんだ」
の肩に頭を預け、気づけばするりと弱音がもれていた。
麻酔でまだよく動かない手で、は背中をさすってくれた。それに促されるように、ぽつりぽつりとローは話す。
「命の恩人で……荒れてた俺に根気強く付き合って、心まで取り戻させてくれた。俺を助けるために死んだんだ。ずっとそう思ってた……でも本当は、それは全部俺のためじゃなかったのかもしれない。俺を通して別の誰かを見てたのかも知れない」
ローと呼ぶたび、思い浮かべていたのは違う人間のことなんじゃないかと。考えるほど、彼が自分に肩入れする理由はないように思えて、何もかもが揺らぐ。
「疑っちゃダメ」
ローの背中を撫でながら、は強い口調で言い聞かせた。
「人の数だけ真実はあるの。ロッティにとって別の真実があっても、キャプテンが感じたことも全部本当だよ。それを否定しちゃダメ」
「ああ……」
わかってるのにどうにもならない。確かめるにはモアと話をしなければならないのに、真実を知るのが怖い。
「キャプテン……」
不安そうなの声。にだけは心配をかけたくないと思うのに、同時に彼女にだけは聞いて欲しくて、相反する感情を自分でも制御できない。