第8章 セブタン島
「お嬢様こそ、大丈夫ですか」
やっとそれだけ、しぼりだす。いつものように、彼女はちょっと顔をしかめた。
「お嬢様だなんて呼ばないでちょうだい」
「センゴク元帥のお嬢様ですから、お嬢様でしょう」
肩をすくめて彼女は「私は何人もいる養子の一人よ」といつものセリフを口にする。
でも彼女が特別なことは、海軍の誰もが知っていた。
センゴク元帥と唯一血の繋がりがあり、生粋の軍人一家の才女。美貌と演技力を認められて女優になるはずだったのに、その道を蹴って海兵になった変わり者。
その理由があのサボテンを贈った人物にあると知るものは少ない――。
60.ありがとう
船に戻り、念の為ローは潜水艦を島の裏側の海底に移動させた。バイトに行ったベポたちは子電伝虫を持っているので、場所を決めて落ち合えばいいだろう。住み込みの土方仕事だと言っていたので、そもそも出港まで帰ってきそうにないが。
診察室で傷を確かめながら、ローはを問い詰めた。
「無茶しやがって……なんでこんなことしたんだ」
「はじめは護身術を使おうとしたんだよ。でも投げ飛ばす前に首を切られちゃうから、先にナイフをなんとかしなきゃと思って――」
「だからってナイフの刃を掴むやつがあるか」
「キャプテンの様子が変だったから焦ったの……」
ミニベポを落とさなくてよかった、とはパーカーの中にカンガルーの子供のように収まったぬいぐいみを確かめてほっとする。
「せめてこれでナイフを掴めばよかったのに」
「そんなことしたらミニベポがバラバラになっちゃうよ」
「の指がバラバラになるよりいいだろ」
私の指バラバラなの?とは涙をにじませた。
「ちゃんとくっつく?」
「絶対、必ず、治してやる。だからもう無茶するなよ」
麻酔を打って傷口を縫うと、は「どうしよう、手の感覚がなくなってきちゃった。落ちちゃったの?」と半べそをかきはじめた。
「麻酔だ。手はちゃんとくっついてる。指もまだ落ちてない」
「将来的には?」
「落ちないようにちゃんと縫ってる」
はほっとして、「……キャプテンが縫い物得意だなんて意外」と言い始めた。