第8章 セブタン島
「ヒューマンショップを爆破したのはあなた?」
「俺じゃない」
「あなたが逃げるのを見た近くの住民がいるわ」
「爆破の瞬間、ヒューマンショップにはいた。なんとか脱出できたのは俺だけだ。そのままとどまれば犯人にされるのは明白だから逃げた。俺だって何で自分が殺されかけたのか理由が知りたい。捜査が進んでるなら教えてもらいたいもんだな」
「知りたいも何も……爆破の瞬間にヒューマンショップにいたならあなたが一番よく何が起こったかは知ってるでしょう」
「……俺が見たのは体に爆弾を巻き付けた奴隷が自分もろとも自爆した光景だけだ」
「……にわかには信じがたい話ね」
話をしながらローはを助けるタイミングをうかがった。
能力を使えば入れ替えは可能だが、ツバメのナイフはピッタリとの首に押し当てられている。ほんの少し動いただけでも大怪我になりかねない。
「では2つ目の質問よ。ドンキホーテ・ロシナンテ中佐を知っているの?」
「……そんな海兵は知らない。てめぇこそドキホーテファミリーのコラソンを知ってるのか?」
人を殺そうという時でさえ冷たい笑みを浮かべていたモアの顔から、ふいに表情が消えて、彼女は目を見開いてローを見た。
「彼は……私の婚約者。生まれたときから兄妹のように育ったわ。兄の暴走を止めると言って危険な潜入任務にあたり、命を落とした――」
呆然とつむがれる言葉に、ロー自身、意識が飛びそうな感覚を覚えた。
『私はロッティ。ロウと呼んで』
『愛してるぜ、ロー!!』
『彼は私の婚約者。生まれたときから兄妹のように育ったわ』
力が抜けて、ローは鬼哭を取り落とした。
「俺じゃなかった……?」
信じていたものに裏切られたような、世界が崩れていく感覚。膝をつきそうになって、けれどの声に、意識を取り戻す。
「キャプテン……!!」
異変を察した彼女は自分に突きつけられていたナイフの刃を両手で握って叫んだ。
「な……っ!!」
スッパリと切れた白い指から大量の血がこぼれる。反射的にローはを自分の腕の中に取り寄せ、刀を拾ってその場から全力で離脱した。