第1章 財前光に処女を捧げる
"Happy Birthday"
と、1行だけのメッセージをあと数分で誕生日が終わる幼馴染に送る。
社会人にもなれば誕生日なんて普段の同じ1日と何の大差もない。そのくせ誰からも祝福されないとシュンと気持ちが沈んでしまうのも事実な何とも面倒くさい日だ。
メッセージを送って数分と経たずにテーブルの上に置いた携帯がブルっと震え、チカチカとランプが点滅した。
早速読むなんてやっぱり誰からも祝福されていないのかと苦笑しながらも携帯を開くと
"着いた"と返信が入っていた。
まさか…と、思いカーテンを開くとやっぱり幼馴染のあいつが外に立っている。
握りしめた携帯が再度震え、"早くしろ"と、メッセージが表示される。
急いで玄関に向かいドアの鍵を開けると、だんだんと階建を駆け上がる足音が聞こえてきた。
「…何しに来たのよ」
「10年越しのプレゼントを貰いに来た」
部屋に着くなり意味の分からない話をされズカズカと部屋に上がってくる自己中の極みみたいな奴の脱ぎっぱなしの靴を揃えながら、そいつの手に持っている紙袋を指差す。
「それ…、何?」
「ゴムやけど」
「はい?」
ますます意味が分からない。
どうして幼馴染の財前がゴムを持って家へやってくるのか、他に使うべき相手が今いないのが不満なのか、はたまた馬鹿なのか。
そして、10年越しのプレゼントって何だと頭いっぱいにはてなが浮かぶ。
「ちょっとよく分かんない」
「アンタ、まだ処女やろ?」
「そうだけど…」
「10年前約束したんは忘れたっちゅうことか。アンタが25歳まで処女やったら俺が初体験を貰うって」
「…え、キモ」
思わずポロッと出てきた言葉を抑えきれなかった。平然とセクハラしてくる幼馴染に寒気がして後退りをする。それでも財前は気にも留めていないのか紙袋から避妊具の箱を取り出すと周りに貼られているフィルムをペリペリと剥がし始める。
「アンタが25まで処女なんが悪い。いくらでも処女捨てるチャンスあったやろ」
「チャンスなんて…、なかったよ…」
「当たり前やろ。俺が邪魔してたんやから」
だめだ、話が通じない。
意味が分からないままだがこのまま財前と性行為をするという事だけは絶対に避けたい百合は財前から避妊具の箱を取り上げると財前の前に正座をして静かに諭し始めた。