第16章 それぞれの真実
浸水した海水の重みで船首が持ち上がってきている。
ラウンジの床もどんどん斜めに角度をつけ、何かにつかまってなければ立っていられない。
「マリアンヌ、小生にちゃんとつかまっているんだよ?害獣を消せなかったのは残念だけど…もう長居は無用だ…」
「(は…はい!!)」
しかし
「先輩のが俺より強いし葬儀屋(そっち)はおまかせしまっす!俺は大分弱ってるコッチを殺っときますんで♡」
「ウチの執事をナメてもらっては困る。この程度で弱ってる?貴様に負ける?笑えない冗談(ジョーク)だ!そうだろう?セバスチャン!」
「えぇ…まったくですね…」
「ったく乙女に面倒な仕事押し付けないでヨ!!そっちもさっさと終わらせなさいよ!!」
一刻も早くずらかりたい所なのに外野はまだやる気満々だ。
片腕にマリアンヌを抱えているというのに容赦なく切りつけてくる。
「やれやれ……君、マダム・レッドの執事をやってた死神クンだね…君も人の命引きずってるねぇ〜?」
グレルの羽織っている赤いジャケットはマダム・レッドが着ていたもの。
自分の手で殺したくせに、いつまでも女々しく羽織ってるあたり相当惚れ込んでいたのだろう。
「なんですっっってぇ?!!詮索する男はモテないワヨ!!」
なんとか隙を作って去りたいのだが、相手も必死だ。
なかなかしつこい。
「ホラホラ…死神(きみたち)はそろそろタイムアップなんじゃないのかい?」
「イケメンを前にしてシンデレラみたいにあっさり帰れないワ!!」
タイムアップは百も承知。
本気で時間がなくなり追い詰められたグレルが渾身の一撃を繰り出そうとした瞬間。
ーバキバキバキバキ!!!ー
天井だった場所が傾いた重みに耐えきれずに壊れ、大量の海水が流れ込み、グレル達はずぶ濡れになってしまう。
「うっわ!!冷た!!あぁ最悪!!何コノ展開〜!………って!!あぁっ!!!」
ロナルドは心底嫌そうに文句を吐くが、ずぶ濡れになり、その凍るような冷たさにブルリと身体が震えると、電撃が走った様にある事を思い出した。