第13章 愛しているから不安なのです
自慢ではないが、遊んだ女の顔と名前は決して忘れない。そんな自負のあった軟派なロナルドには、“どこかであった様な気のする女”というのは自分のポリシーに反するもので、非常に許せない出来事だった。
2等乗り場に行くフリをして、遠目からしばらく観察していたが、やってきたのは怪しいナリの男が1人、変わった模様の鳩が一羽だった。
女の服装から貴族の令嬢かと思ったのだが、一緒の男はどうみても貴族には見えない。
なんともミスマッチな2人にロナルドはますます頭を悩ませた。
その男は女の事を“マリアンヌ”と呼んでいたがその名前に聞き覚えもない。
「くっそ〜、分かんないなぁ〜」
起き上がると、今度はジャケットの内ポケットに入っている回収リストを手に取った。
明後日19日に死亡する予定のリストだ。
1000人以上もある顔写真を1枚1枚確認するが、あの顔も、マリアンヌという名前も出てこない。
「う〜〜ん…やっぱり気のせいか…?」
なんともモヤモヤとした気持ちが晴れなかったロナルドは気晴らしをするためベッドから降りると、3等旅客食堂に向かうため部屋を出た。
円卓の座席で飲んでたら続々と混みだしてきた食堂内。
すると、男だらけの円卓にも関わらず女が声をかけてきた。
「ここ、いいかしら?」
「おーう!美人なねぇちゃんじゃねぇか!!いいよいいよ〜大歓迎だぁ!!」
女はあからさまにロナルド目当ての様だったが、すでに酔いが回った空気の読めない酔っ払いが割り込み返事をした。
「ありがとう。」
女はジョッキを片手にイスにかけると、美人な顔に似つかわしくない豪快な飲みっぷりを見せた。
「お酒好きなの?君名前は?」
ロナルドが小首を傾げるように頬杖をつくと、女に声をかける。
「私?私はソフィー・スミスよ。貴方は?」
「俺?俺はロナルド・ノックス。ソフィーとの素敵な出会いにカンパーイ!!!」
「いやぁだ、もう!!」
歯の浮くような台詞でも軟派なロナルドが酒を片手に言えば自然と場が盛り上がるから不思議なものだ。