第10章 その死神、激情
「(あ、あの…アンダーテイカーさん…どうして…)」
黄緑色の瞳から涙を流し、自身を見つめる妖しくも美しい死神。
愛しい愛しい死神アンダーテイカー。
感情をあらわに怒り狂うアンダーテイカーを見たのも初めてだったが、マリアンヌは涙を流すアンダーテイカーを見るのも初めてだった。
とても信じられないが、目の前にいる愛しい死神の目からは涙が溢れ、頬を伝い、その涙はマリアンヌのスカートに滴り濡らしていた。
マリアンヌはどうしたらいいのか分からず、見つめられたまま動けなくなってしまう。
すると、アンダーテイカーは震える声でポツリポツリと口を開いた。
「…さっき、パン屋の店主が店に来たんだよ……」
「(……えっ?)」
「マリアンヌが店に置いていってしまったと、買い物カゴと財布を届けにきてくれたんだ。それで今日の出来事を聞いたんだ…マリアンヌ、今日は昼過ぎに起きて、買い物に出たんだろう?店主から疲れた顔をしていたから薬酒を飲ませたと言われた。もしかすると、マリアンヌはそこから記憶がはっきりとしていなかったんじゃないのかい?」
「(…………)」
いかにもそうだ。
アンダーテイカーが言うとおり、マリアンヌは薬酒を飲んだ所で記憶が途切れている。
マリアンヌはイエスと首を縦に振った。
「やっぱりそうだったか…マリアンヌ、あの薬酒はアルコールが強くて一気に飲んではいけない物だったんだ。マリアンヌはきっと強いアルコールと、含まれていた成分が強く作用して知らぬ間にあんな事になっていたんだ…店主は君が倒れた時、ちょうど伯爵が乗った馬車が通りかかったから、そのまま連れて帰ってもらったと言っていた…」
「(だから…私はシエルさんのお屋敷にいたんですね…)」
「あぁそうだ……」
マリアンヌはアンダーテイカーの話で何故自分がファントムハイヴ邸の屋敷にいたのか、何故セバスチャンとあんな事になっていのか知る事ができたが、だからと言ってその事実がなかった事になどならない。
マリアンヌは恐る恐るアンダーテイカーの手を取り自身の想いを伝えた。