第10章 その死神、激情
ちょうどその頃、マリアンヌはベッドにうつ伏せになったまま泣き続けていた。
あんなに感情的になって怒ったアンダーテイカーを見たのは初めてだった。
マリアンヌはアンダーテイカーからあんな乱暴な扱いをされた事など今まで一緒にいて、1度だってなかったのだ。
抵抗できない程の力で押さえつけられ、冷たい視線で言い放たれた言葉は、思い出すだけでも背すじが凍り震えだす。
どうして自分がファントム邸の屋敷にいたのかわからない
どうして自分の身体に触れていたのがこの世で1番愛しているアンダーテイカーではなくセバスチャンだったのか分からない。
分からない事だらけだが、自分がファントムハイヴ邸にいたのは事実だし、アンダーテイカー以外の男と…
よりによってアンダーテイカーが害獣と呼んで毛嫌いしていたセバスチャンと淫らな行為をしていたのも事実なのだ。
アンダーテイカーが怒るのはあたり前だ。
自分はこのまま捨てられてしまうのだろうか…
裏切り者と罵られ追い出されてしまうのだろうか…
怖い……
きっと次ここにアンダーテイカーが来たら、別れの言葉を告げ、自分をこの店から追い出す筈だ。
ここを追い出されたら自分はいったいどうやって生きていけばいい……
自分は自身を傷つけてきた人間の元でなんか暮らせない…
でも1人で生きていく術などもっていない。
もう己に残された道は、また娼婦として身体を売り続けるか、野垂れ死ぬかの2択しかないだろう。
怖い……
そんなの嫌だ……
でも、起こってしまった事実は変えられない……
もう二度とアンダーテイカーの温かな愛に包まれることは無いのだと思うと、より一層涙が溢れ出し身体の震えが止まらなかった。
こんなに愛してるのに…
アンダーテイカーの存在は自分の全てだったのに…
こんな事になるなんて……
どうすることもできずに泣いていると、カチャリと寝室のドアが開いた。
「(……!!!)」
アンダーテイカーが自分を追い出しに来た。
マリアンヌの心拍数は限界まで上昇し、それに伴い呼吸がどんどん苦しくなってきた。