第10章 その死神、激情
「…………」
所詮素人の手作り。
味や香りからだいたい何が使われているのかなど簡単に分かる。
確かに疲れている身体には効きそうな滋養成分が主な材料だったが、アンダーテイカーも微かに香る精力成分を見逃さなかった。
その量は極めて微量だが、これは体質に合わなければ微量でも強く作用してしまう。
それに気づくとおのずと繋がってくる点と点……
「…………」
買い物に行った先で飲んだアルコールの強い薬酒。
マリアンヌはあまり酒を飲んだ事がない。
それ故意識を飛ばして倒れてしまう。
そこでタイミング悪く通りかかったファントムハイヴ邸の馬車。
運悪く強く作用したであろう精力成分。
パン屋の主人はマリアンヌの事を「疲れた顔をしていたから」と言っていた。
マリアンヌが薬酒を飲む事になったのは、まぎれもなく昨夜の自分の行為のせいであったという事は明白だ。
ここでアンダーテイカーはやっと気づく。
この事態の原因をつくり、この悲劇を招いたのは“自分自身”だったという事に。
「…なんて事だ……マリアンヌ……」
マリアンヌは何も悪くなかった……
おそらく自分がファントムハイヴの屋敷に連れて来られた事さえも、意識がハッキリと戻るまで分からなかった筈だ。
その為、マリアンヌはあの害獣を害獣だと認識できていない状態で行為に及んでいた可能性が高い。
となると、事情を把握しないまま、マリアンヌの話を聞こうとしないまま、嫉妬に狂った自分が先程マリアンヌにした行為はただの凌辱でしかなかった事になる。
話を聞こうともせず、ベッドに押し付けて乱暴な言葉で辱め無理矢理に抱いた…
どんな言い訳も通用しない…
それはただの暴力行為でしかなかったのだ…
「マリアンヌ……」
『クルルル!!!』
「ビャク……お前は全部知っていたと言うのかい…」
“だから言ったではないか”と言いたげにビャクは羽をバタつかせながらアンダーテイカーに訴えた。