第8章 死神との生活
「(ア、ア、アンダーテイカーさん?!!)」
コツコツと革靴の踵を鳴らしながら近づいてくるアンダーテイカーはいつものアンダーテイカーではなかった。
黒のタキシードにワインレッドのネクタイ、いつもよりこぶりなシルクハット。
細身のパンツは長身のアンダーテイカーの脚をより長く見せていて、髪型は右サイドを編み込み後ろで1つに縛っている。
シルクハットのつばの影からのぞく右目の黄緑色が妖艶に光っていた。
いつもは手が隠れるほどのゆったりとしたローブを羽織り、ストールをかけているアンダーテイカー。全く正反対の姿に言葉を失ってしまう。
目元の隠れたいつもの服装も、妖しく謎めいた雰囲気が魅力的でマリアンヌは嫌いではなかった。
しかし、今目の前にいる正装したアンダーテイカーも、似合い過ぎていて、マリアンヌは軽く目眩を起こしてしまった。
「マリアンヌがせっかくお洒落をしたんだ。小生も並んで歩くのに恥ずかしくないように着替えてきたけど、こんな小生は嫌いかな?」
マリアンヌの前に立ち、少しいたずらっぽく笑ってみせるアンダーテイカーに、再び目眩を起こしてしまう。
「(そ、そ、そんな事ありません……)」
マリアンヌはこの妖艶な美しさをまとっているアンダーテイカーに、胸を高鳴らせると、何も言えなくなってしまった。
「それじゃあ、出かけよう〜。」
そんなマリアンヌにお構いなしのアンダーテイカーは、外に出ると左の腕を出し、妖しく微笑んだ。
これはもしかしなくても、腕を組んで歩けという意味だろうか……
顔を真っ赤に染めながら微動だにできなくなってしまったマリアンヌに、アンダーテイカーはその右手を優しく取ると自身の左腕に絡ませ組ませてやった。
「素敵なレディをエスコート無しで歩かせるわけにはいかないだろう?」
そう言いながら歩くアンダーテイカーは実に楽しそうで、実に満足そうだった。
しかしマリアンヌは、自分がこんなにも美しい死神アンダーテイカーの隣で歩くことの方が、不釣り合いの様に感じてしまい、俯きながら歩く事しかできなかった。