第2章 仮初
刑罰が下されなくとも、少年院とかそういう所行きにはなるだろう。
私は知っていた。
病院長たる父が非合法組織に協力し、その患者を治療する事で地位・名声・金銭全てを手中に収めていたこと。
母も看護師でありながら、病院の地下に非合法組織の為の人体実験室を作り、そこで毎夜の様に悲鳴が上がっていること。
とある政治家とも癒着し、多額の賄賂を渡す事で病院の地位をより高いものにしている…等々。
要するに、我が家は様々な悪事に手を染めてきたのだ。
それを知る私も…きっと例外じゃない。
思考の中にようやく形を帯びてきた現実と、銃で狙われている今の状況。
私は右手に握った石ころをぎゅっと握りしめた。
ーー冗談じゃない。確かに私は両親のする事を識っていた。だからと言って皆殺しされるのは……嫌だ。
理不尽。
今の私の怒りは、其所から来ていた。
朝方抱えていた「死にたい」という気持ちはとうに消え失せ、ただこの非道い状況に抗いたいという想いだけがぐるぐると腹中を渦巻く。
暫く私は、この理不尽と戦わなければならないのだーーー
そろそろ織田作さんが戻って来ても、いい頃合いだろう。
私は先程の地面の落書きを靴底でがっがっ、と消して瓦礫からそっと顔を出しーーーかけたのを止めた。
蒼い瞳が二つ、瓦礫の隙間から優凪を直視していた。
「見付けたわ」
此方を覗いていた少女はにっこりと笑いかけた。
其れはまるで、ずっと欲しかった玩具をやっと見付けた時の様な、無邪気な微笑みだった。