第2章 仮初
二時間後。私は優凪と共に繁華街の豪華絢爛な門を抜けた。
彼女はというと、チーズ饅頭含めて戦利品となった数々の中華料理に舌鼓を打ちながら食べ歩いていた。
此処へは初めてか、と話を振ると頷く。
饅頭を買った辺りからか、彼女の纏う雰囲気が少し変わった様に私は感じていた。それまでは何処か、微弱ではあるが針鼠の様にピリピリとした警戒をしていたのが、今では私の横にぴったりとくっつく様に並んで歩いているのだった。
お兄さんは、と優凪が口を開いた。
織田作でいい、と云うと頸を軽く右に捻り、じゃあ織田作さんはと言い直す。
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「織田作さんはーーーー」
如何して私をここに連れてきて呉れたんですか?
その質問が最後まで紡がれる事は無かった。
口を開いた途端、織田作さんの表情が変わり私を横抱きにする。
ドドドドドトドド、と銃の乱射を抜け、近くの建物を遮蔽に織田作さんは通路を確認した。
ここまで僅か数秒。
1発も当たること無く、しかも子供を抱えて走り抜けるなんて。
この人…只者じゃない。
顔を見上げると、真剣な眼差しとぶつかった。
「少しここに隠れていてくれ」
「織田作さんは?」
「俺は大丈夫だ」
何が大丈夫なのかも分からない儘、私は路地の奥にあった瓦礫の隙間に押し込められる。
そして彼は先程来た道へと駆けて行く。
何故だろう。
つい数時間前迄は、「死にたいな」と思っていたのに。
つい2時間前までは、この人の事を只の親切な人だと思っていたのに。
ついさっきは、死のうとしていた事を忘れてもう少しだけ、なんて思っていたのに。
意図も容易く壊されてしまった。
待って…!!
咄嗟にそう思ったが先程の体験の所為か、一言も言葉が出る事は無かった。代わりに耳が遠ざかる足音を拾う。
ブラウスの袖で口を覆い、そのまましゃがみこんで蹲る。
織田作さんに何を期待しているのだろう?私は。
自分の家は裕福で恵まれている事は識っている。裏社会との繋がりがあるお陰で、大戦の影響を大いに受けたこの国の中でも生活に不自由しない位だ。
その環境すら灰に帰す程に私は身体も心も弱い。友達も作れず、体調を崩しやすい事も手伝ってほぼ家に篭もりっきりだ。学校も満足に行けてない。行った所で体調を崩し倒れるだけだ。
途中から両親が私の世話をすっぽかすのも、道理である。
