第2章 仮初
「…………。」
優凪は先程自分の歯型がついた餡饅をじっと見ていた。
えーっと、お嬢ちゃん…?もしかして美味しくなかった…??と戸惑う男性にも応えず、しばらくそうしていたかと思うと
ぱくぱくぱくぱくっ!
と一気に平らげてしまった。
あまりの早さに、私と男性は暫し呆然としていた。
優凪が男性に向き直りご馳走様でしたと一礼したのを見て、
男性も我に返ってそりゃー良かった!と破顔する。
「凄く美味しかったです」
そう言って天使の祝福のような笑みを浮かべた優凪に気を良くしたのか、男性は他にも色んな味があるんだ、試食して行ってくれよ、と幾つか商品を屋台テーブルの上に載せた。
「これがチーズ味の饅頭、これが咖喱味の饅頭。咖喱の方は中辛と激辛があるよ」
お嬢ちゃんにはチーズ味なんてどうかな、と男性。
私も優凪の横に並ぶと、真剣に悩んでいたらしい彼女が私を一瞬見上げた。
何の意図があるのか分からないが、それに気付いた私も見つめ返す。すると何事も無かったかのようにふいと視線を逸らしこれが欲しいです、と咖喱味の饅頭を指していた。
「え、お嬢ちゃんこれがいいのかい?」
コクリと頷く優凪。
「辛さは?」
「激辛でお願いします」
「えぇぇえええええええ!!?!これ結構辛いよ?」
大丈夫ですと言いながら鞄に手を伸ばす彼女を制し、私はチーズ饅頭も一つ追加で、とお代を男性に手渡した。
そして饅頭の入った袋を優凪に差し出す。
「……いいんですか?」
「……?ああ。」
流石にこれ以上試食するのは店の為にも善くないのはあったが、咖喱味を彼女が選んだのは恐らく私の為なのだろう。
先程までの少女の行動を見る限り、直感的にそう思うようになっていた。
優凪は何故か袋を見詰めていたが、ありがとうと言って微笑んで見せた。
それは私に今まで見せた数少ない表情の中で、最も自然で、最も輝いているように見えた。