• テキストサイズ

死の舞踏

第2章 仮初


織田作之助は困っていた。
裏路地にて座り込んでいた齢10歳くらいに見える少女を真横に、
横浜中華街にて食べ歩きを敢行していた。

「いらっしゃ〜〜い!!お客さん、こちら新発売の『真のフカヒレ』ですよ!おひとついかがですかーっ!!」
「出来立てアッツアツの焼売はいかがですか〜?」
今日も中華街は人で賑わい、人気店の屋台には既に若い女性やカップルが行列を作っていた。

「肉まんあるよっ、お嬢ちゃんひとつどうだい??」
ひとりの屋台の男性が、こちらに声をかけた。
私は横を歩く少女ーー
橘優凪をチラと伺った。

絹のように美しく流れる銀髪、燦然と輝く碧の双眸。雪のように白い肌、燃えるように紅い唇。全てが整った、美しい容貌をしている。きっとかなりの美人になるのだろう事を見た者全員に予感させるものがあった。人攫いからすれば、彼女は格好の獲物だろう。このまま放っておく訳にはいかない。

そう思って連れ出してはみたものの、家族もいない行く宛も無い少女相手にどう過ごすのか分からず、こうして子供の喜びそうな食べ歩きに興じているのだった。先に児童保護施設に行くべきだったかとも考えたが……。まずこの少女と打ち解けてから、それからどうしたいか聞くべきだろう。

しかし、少女は付いてきてからというものの、一言も声を発さずに辺りをチラチラと少し警戒しているようだった。何かワケありなのは感じていたが、子供にこれだけ警戒させるのだ、相当厄介な事を抱えんでいるのかも知れない。

「おや、お嬢ちゃんは餡饅の方が好きかい?」
そうこう考えているうちに、どうやら優凪はじーっと餡饅の入ったケースを見ていたようだ。そう言ってニコニコと男性は餡饅をケースから一つ取り出すと、ぱっくりと二つに分けた。

「ひとつは嬢ちゃんに。ひとつはお連れの兄ちゃんに」
「……いいのか?」
「もちろん。こんな可愛いお嬢ちゃんに食べてもらえるなんて、光栄だよ」
ハッハッハ、と男性は嬉しそうに笑った。

礼を言い、私は餡饅にかぶりつく。
それを見ていた優凪も、『これは食べていいのだ』と解したらしく、ひと口ぱくっ、と控えめに餡饅にかじりついた。
/ 56ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp