第4章 剔抉
本人が想像していたよりも大きな声がリビング中に響いた。
「ッッ、これ以上はーー」なおも叫び続けたところで、口元を大きな手に遮られた。ーー織田作だ。
織田作は優凪をソファーの影に押し込み、代わりに自らはソファーの影から立ち上がった。
「織田作さん、どうして…?」
優凪は問いかけた。しかし、その返答はなく。
織田作は再度銃を構えたまま、黒スーツ達の元へにじり寄る。
「…!?行っちゃダメ…!!」
優凪の静止も聞かず、目にも止まらぬ速さで銃弾が飛来する。
その中で織田作はというとーー敵の全ての攻撃を完璧に避け、かつ
足や腕を的確に撃ち抜いていく。
ーーーわずか数秒で敵の戦闘能力を全て剥いだ。
「うっ…がはっ…!」「早く…医療チームを…」
呻く黒スーツ達の前で、織田作は先程と同じように平然と立っていた。
パチパチパチパチ…
「いやあ見事だったよ!さすがはポートマフィア最下級構成員にして優れた戦闘能力を持つ男ーー織田作之助。」
突如としてベランダから聞こえた声の主。どうやらベランダにいるようだ。
顔は逆光でよく見えないが、声の感じからするとまだ若い…10代くらいの少年の声だ。
「本当は君じゃなくて、そちらのお嬢さんの力を見に来たのだけどね。中々善い物を見せて貰ったよ。」
ベランダのガラス戸を開けて入ってきた少年。顔は暗がりでよく見えないがーー優凪には笑っている様に見えた。
…私の、力?それって一体…
それよりも。
(この人は、怖い)
優凪は咄嗟にそう直感した。
「誰だ?」織田作が問う。
雲の切れ間から光が差し込み、少年の顔を顕にした。
黒い蓬髪。首や腕など体じゅうに巻かれた包帯。その白さとは対称的に、漆黒のような黒いコートに身を包む少年の顔立ちは酷く整っていた。
「…僕?僕は太宰。太宰治だよ」
そう言ってニッコリ笑った。ーー優凪に銃口を向けながら。
「っっ……」
先程まで大声を上げていた威勢はどこへやら、優凪は銃口の前に為す術もなく固まった。いざ死が目の前に迫ると、人間はこんなにも無力なのか、とすら思う程身体は動かなかった。
「やめろ」
後方で声がした。織田作だ。
「なんでだい?彼女はここで殺された2人の娘だろう?ポートマフィアの敵じゃないか」
太宰と名乗る少年はそう続けた。