第4章 剔抉
「それは違う。彼女の両親はマフィアの協力者だった筈だ。」
「確かにそうだ。表面上はね」太宰は肩を竦めた。
「表面上は?」織田作が眉を顰める気配がした。
「彼らは庇っていたのだよ。…そこにいる彼女、橘優凪をね」
「……え?」
私を??……一体何から??
カラカラになった喉から、そこで漸く声が漏れ出た。率直な疑問の声だ。
「気付いていないのかい?……成程」
パンッ
優凪の頭上僅か数センチを疾風が駆け抜ける。ひやり、とした汗が頬を伝った。逸る心とは反対に再び身体が硬直してしまう。
寒い。身体中がーー寒い。まるでこのまま、凍えて仕舞いそうなくらいーー
「何か、発動条件があるのかい?それとも、君は本気で命に危険が迫らない限り、発動すらしないのか」
何をーー言ってるの?
「嗚呼、それとももう既に『発動』しているのかい?」
意味がーー分からない。
太宰が銃口を此方に向けたまま、トントンと歩みを進める。
距離が詰まれば詰まる程、身体の寒気は増していった。
「マフィアの報復方法を取ったのは、上手く隠したつもりかい?子供にしては上手く考えた積もりかもしれないーーでも、だとしたら杜撰だ、非常にね」
「銃を下ろせ」織田作の忠告虚しく、太宰は足を止めずに此方へ来る。発砲音らしき音が太宰の足元を掠めたが、外すのを解っていた様に軽々とした足どりで優凪の眼前に迫った。
寒い。寒い。寒いーーー
「君、、今迚も『寒い』だろう?」
寒さが、限界に達した。
パキパキという音が足元から生まれる。そのまま冷気が幾つもの刃の様になって、目の前の少年の胸を穿いたーーかのように見えたが、其れ等は何故か少年に触れた途端、霞のようになり消えてしまった。
「嗚呼ーー矢張り君も、僕を殺せないのだね」
心底残念だ、と言わんばかりにニッコリと太宰は笑ってみせた。
手に握られていたはずの拳銃が、力なく床に落ち音を立てる。
その拳銃を持っていた腕の手首を、織田作が握りしめていた。
助かったーーそう思うと同時に、冷気はなりを潜め、少女ーー
橘優凪の中へと収容された。
糸が切れたかのように、彼女の身体が床へ崩れ落ちる。
織田作が瞬時に受け止めるが、彼女の身体は力を失った儘、その腕の中でだらりとしていた。
意識は無かった。